第10話 彼を求めて、三千里(10)
私の鉄拳は命中した。
「げぶっ!?」
「えっ!?」
「お、大場さん!?」
驚く周囲と、女の子の前でソバカス男が宙を舞う。
「な、なにが・・・!?」
「汚い手を離しなさい!!」
殴って踏み込んだ姿勢を変え、カンナと呼ばれていた子を、悪い奴らから奪い返す。
「離せ!!」
「ぎゅあ!」
「ぐへ!」
実力行使の拳と蹴りで、引き離した。
「大丈夫!?」
距離を取り、女の子をかばいながら円城寺と言う子の側まで後退した。
「あ、ありが・・・・って、あんた誰・・・!?」
「なんだテメーは!?」
「お、お前!円城寺の新しい仲間!?」
戸惑う女の子と男達の質問に私は答えた。
「いいえ、通りすがりの一般人です。」
「どこの世界に、うちのナンバー2を一撃で沈める一般人がいるか!?」
鼻血を吹いて動かないソバカス男の側で、下っ端達が騒ぐ。
苦情が出たけど押し通した。
「一般人と言ったら、一般人です。ほら、早く帰りなさい。私も終電なくなる前に帰りたいから。」
「テメー!?」
「代わりに殺してやる!!」
そう言いながら、私へと向かってきたヤンキー達。
「わからない奴らですね・・・」
これで、すっと呼吸を整えて構える。
「下がって。」
「えっ!?」
女の子を後ろへと隠す。
組手の時のように型を作って構えた。
「カッコつけてんじゃねぇぞ!」
「テメーにもリンチお見舞いしー!」
「はっ!!」
2人同時に飛びかかって来たのを、膝と肘で叩き落とした。
「なに!?」
「はぁ!!」
驚いて固まる男達に、今度は私から飛びかかった。
喉。
「ぎゃ!?」
胸。
「うわ!?」
腹。
「ぐっ・・・!?」
みぞおち
「げあ!」
そして・・・・・・・・・ピー的部分。
「おんぎゃあああああああああ!?」
を、蹴りあげた。
「ひぎゃ?ん!」
それで、仲良く地面に転がっていく悪質な不良達。
「す、すっげー!」
「マジか・・・?」
少年少女の視線を感じる中で動きを止めた。
もう一度構え直した時、10人ぐらいが動けなくなっていた。
(やっぱり、急所を狙って戦った方が楽ね・・・)
そう考えながら、目を丸くして私を見ている連中に言った。
「リプレイします・・・・今すぐここから、帰りなさい・・・!」
ニッコリと、笑顔を作りながら言えば、わかってくれたのだろう。
「じょ、冗談じゃねぇ!勘弁してやる!」
「お前、覚えてろ!」
「つ・・・次はさらって処刑してやる!」
そんな捨て台詞を残して、我先にと逃げ出したのだが・・・
「お家には、帰れないぜ・・・。」
地を這うような低い声。
「げえ!」
「があ!」
「うげっ!」
立て続けに断末魔が響く。
「君は・・・!?」
「大河!?」
「やるじゃんか、オメー・・・」
そう言いながら、拳を胸の前で組み、ボキボキと鳴らす血まみれの少年。
「カンナさえ取り戻せば、こっちのもんだ・・・・!!」
「え、円城寺!」
「1人も逃がさねぇ・・・・!!」
「「「うぎゃあああああ!!」」」
鬼のように笑った彼の言葉通り、彼らの中で、この場から脱出できたものは1人もいなかった。
〔★おあとがよろしかった★〕
◇
◇
◇
深夜、公園の中は、生きている人間の屍(しかばね)で一杯だった。
「カンナ、平気か?」
「あたしは大丈夫!それよりも、大河の方が・・・!!」
「バーローっ・・・これぐれー朝飯前だ。」
私の目の前には、KOされたヤンキーの山と、それを作った2人の男女の姿があった。
あれから・・・逃げようとする羅漢のメンバー達を1人残らず叩きのめした円城寺という男子とカンナという女子。
私も手出しはしたが、それはあくまで応急処置の範囲。
手を出されたら受けるぐらいで、彼らほどじゃない。
ただ、正論を盾に、一対複数で女の子をリンチにした奴らが許せなくて手を出しただけ。
試合だってそう。
負かした相手を必要以上にいたぶるのはよくない。
なによりも、早く彼らに帰ってもらって、この人達から解放されたいという気持ちがあった。
(まだ走れば、間に合うもんね、終電・・・)
携帯で時間を見ていれば、側にいた男子がため息をついた。
「ぶざまだな・・・こんなことで、へばっちまうとは・・・!」
「馬鹿言うな!大河はよくやったぞ!?お前もそう思うだろう!?」
「あ・・・うん。伸びた人間をバット代わりにして人間を叩くという荒業は、初めて見ました・・・」
少女の問いに、素直に従った。
そして提案した。
「あのさ・・・君の怪我も、その人の怪我もひどいよ。病院へ行った方がいい。」
「え!?そ・・・それはそうだけど・・・」
私の言葉に、なぜか彼女は顔を青くする。
困った表情になる。
(・・・何か都合が悪いのかな?)
側に転がっているヤンキーの上着をはぎ取り、それをブラジャーのみの上半身にかけながら聞いた。
「どうぞ。」
「あ、すまねぇ・・・」
「断片的にしか聞いてないけど・・・君達は、『大嵐山』へ行かないといけないの?」
「え!?あんた、そこまで知ってるの!?」
「は?」
「ああ・・・いや、そうね・・・。『このこと』を知らない奴なんていないもんね・・・」
「なんのこと?」
かけた上着を握りしめ、ぶつぶつとつぶやく少女に、もしかして話がかみ合っていないかもしれないと思う。
そう思った時、別の声が上がった。
「部外者が口出しするな。」
「大河!」
ぐったりしていた少年だった。
威嚇(いかく)するように私を見ながら言ってきた。
「テメーが・・・どういうつもりで手を出したか知らねぇけど、情けかけられる覚えはねぇ・・・消えろ。」
「ちょっと、大河!?」
「俺が『大嵐山』に行かないと・・・行けなかったことで、メンツつぶされて、庄倉のいいようにされてたまるか・・・!」
「大河!無茶するなよ!絶対、骨折れてるって!」
「頭の俺が行かないでどうなる?」
「あたしが行く!あたしがあんたの代わりに、奴と――――――!」
「馬鹿が!」
「きゃ!」
「あ!?」
引き止める女の子を突き飛ばして立ち上がる。
「おい!君まで女の子に何してんだ!?」
あまりの振る舞に、思わずそいつの襟首を引っ張れば・・・
「うっ!?」
「え!?」
「大河!?」
ゴーン!!
御寺の鐘が鳴るような音がした。
「・・・・・・・・・え?」
「た、たいが・・・・?」
「ぐぅ・・・・!?・・・うぐ。」
見れば。
「・・・・大河?」
「えっ・・・!?」
「・・・・。」
私がひっぱったことで足元が滑り、転がっていたバットに後頭部をぶつけて気を失っていた。
〔★大河は白目をむいている★〕
〔★意識を手放したようだ★〕
(えええええええええ!?)
「う、うそ!?」
(私のせい!?)
これ、私のせいか!?
アワアワしながら横を見れば、引きつった顔の少女と目が合う。
「お、お前・・・!?」
「わああああああ!?待って!疑いの目を向けないで!誤解だから!これ事故で~!」
「おまえぇ――――――――――!!」
怒鳴る女戦士。
女の子は、めちゃくちゃ凶暴な顔で私に近づくと・・・
「・・・・ありがとう。」
「え・・・?」
そう告げて、一筋の涙をこぼした。
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