第9話 彼を求めて、三千里(9)
「お前ねぇーまだわからないの?こいつは、男にまじって喧嘩や走りしてんだぜ?女だからって言う理由で、俺らが手加減してたらそれこそ不公平だろう?」
「そんな・・・だったら、関わらなきゃいいだろう!?わざわざ、喧嘩しなくていいじゃないか!?」
「大ありなんだよ!!こいつら、『あれ』にエントリーしやがったんだ!」
「エントリーって・・・勝ち抜き戦て奴のこと?」
「そうだよ!女入れて戦ってんのは円城寺のところぐらいだ!」
円城寺から聞いた言葉で聞けば、鼻を鳴らしながら言われた。
「そんなことされちゃ、硬派でやってる連中はもろ不公平なんだぜ~?ケンカ吹っ掛けられても手も足も出せない。ケンカ売るのも、硬派だと女は殴れないから!」
「なに言ってるの!?殴ってるじゃないか!?」
「そうだよ!親切で殴ってやったんだよ!こいつら、ある意味、策士だぜ!男は男同士、女は女同士でってタイマンの形変えやがったからな!だからこそ、俺らは周りに示しをつけるって意味でこの女にヤキを入れた。みんながみんな女だからって手加減するなって思うなよってよ~!」
「・・・・だから、そんな姿にしたの?」
ゆっくりと、静かに聞けば、下品な笑いが耳に届く。
「教えてやっただけだ!考えてみろよ!男同士のタイマンの時に、女がシャシャリ出てこられちゃ、調子狂うだろう!?心理作戦だよ、心理作戦!こいつらのしてることはそう言うことだ!わかったか、ばーか!!」
本当に、こいつらの言うことは正しい。
だけど―――――――
(正論ではあるけど、正論じゃない・・・・!!)
まるであれみたい。そう・・・
(黒人差別のせいで、貧しい黒人家庭だけに援助金を出したというある州の機関に対して、そこに住む白人たちが『人種差別』だと言ってその制度をなくしたって話と同じ。)
学校の世界史で聞いた話を思い出す。
それを聞いた時のような気持になる。
(正論だけど、何かがゆがんでる。)
少なくとも、私に説明している大場という奴はイカレてる。
「やれるもんなら、叩けるもんなら叩いてみろって調子乗ってるからよ~お仕置きしてやったんだ!」
ヘラヘラしながら得気に話してるから。
(そんな理由で・・・そこまでしたわけ?)
男と女の力の差は、どうしても縮まらない。
護身術を習い始めてから、特に強く感じた。
だけど、だからと言って――――――――――
(そんな言い分で、女の子を、『1人をみんな』でリンチにしたの・・・?)
「おわかりか、マスクのお子ちゃま?」
「よーく、わかった。」
自慢げに言う相手に、私は自然と笑みがこぼれる。
楽しい気分からではない。
どうしようもない負の感情が、私に笑顔を与えた。
私の表情を、彼らがどう解釈したのかは、わからない。
ただ、興味の対象が私から私の隣に移動したのは確かだった。
「新入りさんへの抗議も終わったことだし・・・本題と行こうぜ、円城寺!カンナちゃん怪我させたくなかったら、わかってるよな!」
「その前に、オメーらもお勉強の時間だ。」
「なに?」
ヘラヘラしている大場と羅漢メンバー達に円城寺が言う。
「カンナをそこら辺のバカ女と一緒にするな。」
低く鋭い声で、拳をならしながら告げる円城寺。
「俺はよぉ・・・カンナ達とつるむって決めた時点で、女盾にしてやがるって誤解されることは百も承知で心得てんだ。」
「大河!?」
「おいおい、この期におよんで言い訳か?」
「いいや、いつもする解説だ・・・!」
目を丸くするカンナと、はぁ?という大場とその仲間達に円城寺は言った。
「俺は、テメーの立場が悪くなった喧嘩に、カンナを代理で送り出すなんざしたことはねぇ。これからもするつもりはない。テメーの喧嘩はテメーで始末してきた。今までも、これからもだ。」
「大河・・・」
「カンナは、女って言う前に、俺らのダチで一緒にバカやる『戦士』だ。二度とメスだの性処理だのってふざけた口叩くんじゃねぇ・・・・!!」
「ひっ!?」
「わかったな・・・!?」
そう語る顔は、人でも殺しそうなもの。
大場をはじめとした男達を、後ずさりさせるだけの迫力があった。
「ふ・・・ふん!だから、なんだよー!?」
ビビってはいたが、大場はすぐに元に戻る。
「こっちにはカンナがいるんだ!お前が下手な動きしたら、オメーの目の前で犯してやる!」
「テメー・・・!」
「カンナちゃんが大事なら、言うこと聞いてもらわないとな!?まずは、裸になって街を徘徊してもらおうかー!?」
「聞くな大河!あたしに構うんじゃねぇ!こいつら殺せ!」
「こらこら、先にオメーが素っ裸にされたいか!?」
「きゃ!?」
「やめろ!!カンナに手を出すな!!」
「じゃあ、黙ってろよ!!」
カンナという子を乱暴に扱いながら、怒鳴りつけるそばかす男。
「立場考えて物事言いやがれ!ツレを助けたくないのよ・・・!?」
「・・・わーてる。俺が従えば、カンナには手を出さないんだろう・・・!?」
「大河!?」
「やっと、俺らに頭下げる気になったか?」
「馬鹿野郎!あたしのために、真の後継者のオメーが三下相手に頭下げるなよ!?そんなことするぐらいなら、あたしは死ぬ!」
「馬鹿はお前だ!」
涙ぐむカンナに、大河は言った。
「ガキの頃からつるんできた仲間を、俺に見捨てろって言うのか!?オメーは男女平等のこの世の中じゃあ、俺の大事なマブダチのツレなんだぞ!?」
「たいが・・・」
「もう・・・いいんだ。仲間踏み台にしてまで、俺は上を目指す気はないっ!!!」
「大河・・・・!」
「全く泣かしてくれるね??」
友情を強く感じる話を、下品な声が遮る。
言ったのは、『男・女』という以前に、勝つためなら『人質』という最低の手段しか使えない馬鹿。
「大場・・・!」
「女1人切り捨てられないで、てっぺんを継げるわけがねぇだろう。」
「黙れ、大場!お前らが、卑怯な手を使うからだろう!?」
「カンナ、もういい・・・よせ。」
「よくねぇーだろう!?大河のその怪我だって、庄倉の方から誘ってきた嘘のタイマン話でつくったんだろう!?なにが一対一でケリつけようだ!?誘ったのはテメーらのくせに、行ってみれば、兵隊引き連れてきやがって・・・!」
「うるせぇ!」
「痛っ!?」
抗議するカンナの髪を掴んで数本引き抜くと、そばかすの男は言った。
「世の中、勝ったもんがルールなんだよ。」
小憎らしいくらいムカつく顔で、声で言ってくる。
挑発目的で、カンナの顔の前で、わざわざ抜いた彼女の髪を、見せるように地面へと落としながら大場は告げる。
「テメーらは、俺らに負けた敗者でしかないんだよカンナちゃん。」
「ち・・・・ちくしょう・・・・!」
悔しそうにする女の子に、何もできない子相手に、偉そうに言う態度。
「じゃあ、負けたら?」
だから、聞いてしまった。
「君らが、他の誰かに負けたら、もう勝者じゃないよね?」
「はあ?」
「今―――――――――――――――敗者にしてやるよっ!!!」
あまりのムカムカに、動いてしまった。
「なっ・・・!?」
くそムカつく男の顔に。
「正論吐いててもやりすぎだぁ――――――!!!」
握った私の拳を叩き込んだ。
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