第8話 彼を求めて、三千里(8)



人間、欲を出すのはよくない。


終わりにしていた、本日の瑞希お兄ちゃん探し。


珍しく、ヤンキーから声をかけてもらったということもあって、最後の最後で瑞希お兄ちゃんのことを質問した。


しかし、それが良くなかったらしい。


なぜなら、声をかけた相手は・・・






「ここで死んでもらうぜ、円城寺(えんじょうじ)!」





血だらけの怪我人というだけでなく、凶悪そうな人達に追われている人だったからだ。


気づけば、お揃いの趣味の悪いジャケットを着た男達に囲まれていた。






「あの・・・これどういうこと?」


「・・・ああ。」






殺気立つ周囲をしり目に、円城寺と呼ばれた怪我人に聞く。


これに彼は、先ほどよりも整った呼吸で言った。






「あいつらは・・・『羅漢(らかん)』の庄倉(しょうくら)の兵隊で、今しゃべってるのが雨宮ってんだ。」


「らかん?しょうくら?雨宮?」


「おう。ちっとばかしなー・・・勝ち抜き戦してんだわ。」


「勝ち抜き戦?」





聞き返せば、私が肩を貸している男の子はニヤリと笑う。






「俺が勝てば、てっぺんを受け継ぐことができる・・・!それを『あいつら』は、卑怯な方法で奪い取ろうとしてる弱虫どもよ!」


「ああ!?なめた口きくなよ、死にぞこないが!!」






彼の言葉に、牛皮の時計をした男が怒鳴る。





「テメー『羅漢』と庄倉さんにたてついて、残りの人生楽しめると思ってんのか!?」


「オメーの大将が、人生馬鹿にしすぎなんだよ、雨宮!薬に手ぇ出して遊んでる頭カラっぽが、調子に乗ってんじゃねぇぞ!」


「おもしれぇ・・・円城寺!けりつけてやる!」





そう言うと、野球部が部活動で使うらしいバットを手にして近づいてきた雨宮という男。





「え!?え?なに?」





事態が読み込めなくて戸惑う私の肩から、円城寺という子が離れた。





「おらぁ!!」




バキッ!!




「ごは!?」



「きゃああああああああああ!?」





見れば、先ほどまで腕の中にいた男の子が、バットごと雨宮という男子を殴り飛ばしていた。




〔★バトルがスタートした★〕




「雨宮さん!」


「口ほどでもねぇーな?」


「マジムカつく円城寺!!」


「もう勘弁ならねぇ~うちの幹部を!」


「殺せー!!ぶっ殺す!!」




挑発的な円城寺という男子の態度に、四方から一斉にヤンチャそうな男子達が飛びかかる。





「さすが!1人じゃ何もできない雨宮部隊!遊んでやるよ!」





この状況に、楽しそうに笑いながら円城寺という子は迎え撃つ。


おかげで、静かだった公園は、あっという間に大乱闘状態へと化す。





「ウラぁ!!」


「ぎゃ!?」


「おらおら!」


「うわぁあ!?」


「くそ~化け物か円城寺!?」





「はわわわ・・・・!!」





突然の展開に、地図版の側で固まるしかない私。


一対複数の状況、血だらけの男子が有利だった。





(なんなのこれ!?何が起きてるの!?)




喧嘩!?



戦争!?



戦いだよね!?




〔★全部正解だ★〕




戦う周りに反し、私だけがなにもしないで立ち尽くしていた。





「どうすれば・・・!?」




こういう時、どうするべきか?


このまま静観するか、立ち去るか。


元々関係ないし、終電も近いから、帰った方がいいとは思ったが・・・






「相手は1人だ!力で押せ!」


「ちっ!クズが・・・・!」



(下種でもあるでしょう・・・)





ヤンキー達と円城寺という子の言葉に、無意識のうちにそう思った。


いくらヤンキーとは言え、怪我をした1人をリンチにするって・・・・





(よくある話でも、なんか嫌だ・・・)





そんな私の気持ちを、逆なでするように事態は急転した。







「そこまでだ、円城寺!」


「こっち見な!」


「あん!?」




「あっ!?」






その声に、私もつられて振り返った。


同時に、はらわたが煮えくり返った。







「カンナ!?」



(顔が腫れまくりの女の子!?)







いたのは、短いスカートと長いブーツを履いた女の子。


上半身はブラジャーだけを身に着け、首のあたりは真っ赤だった。


顔は・・・






「カンナ!?カンナなのか、お前!?」





知り合いらしい、円城寺という男子が問いただすほどひどかった。




負傷した少女の登場で、円城寺という男の子の態度が激変した。





「テメー大場(おおば)!?カンナになにした!?」





怒りと戸惑いが宿った目が、大場というソバカス男を怒鳴る。


これに怒鳴られた方は、薄ら笑みを浮かべながら答える。





「オメーの居場所を言わないから、思い知らせただけだ。」





そう言うと、『カンナ』と呼ばれた女の子の髪を引っ張る大場。


それで項垂れていた少女の顔が、さっきよりよく見えるようになった。


彼女の顔は、相当殴られたのだろう。


目の上まで腫れ上がっていた。






(ひどい・・・・!!)






護身術の試合でも、あそこまで激しい殴り合いはしない。







(これは・・・・・・本当にルール無用の実践なのね・・・!)





〔★最低の実践だ★〕





いや、そうだとしてもおかしい!





(女の子の顔をあそこまでひどく殴れるなんて・・・!)





おかしいと思った時、大場というソバカス男が乱暴に少女を揺さぶる。





「ほれ、起きろメスブタ!」


「くっ・・・!」



(あれ?もしかして・・・あの髪は・・・・!?)





顔の傷に見入っていた私は、もう1つの事実にも気づく。


ザンバラにされ、長さもまとまりもない栗色の毛。








「お前ら、その子の髪を切ったのか!?」





無意識に叫べば、私の声にソバカス男が反応する。






「はあ?だから?オメーはどこのもんよ?」


「はあ?お前こそ、質問に答えろ!女の子にそんなことして、男として恥ずかしくないのか!?」






そう言い返した瞬間、相手の顔色が変わる。


そこにいた全員が、同じ反応をした。






「「「「「ぎゃはははははは!」」」」」


「男としてだって、こいつ~!」


「マジ受けるんですけど!」



「えっ!?」







腹を抱え、大爆笑する男達。


おかしくないはずの言葉に笑う連中。


笑ってないのは、私と円城寺と囚われの女の子だけ。




「あのねーお前!今の世の中わかってる?」


「な、なにが!?」


「この世は、男女平等の世界なんだぜ~?それを『男が』とか『女が』とか、マジで語る方がおかしいんだぞ?」


「・・・・・・・え?」




(なにそれ・・・?)



間違ってはいないけど・・・・



(こんなにもムカつく正論初めてなんですけど・・・・!?)





不愉快さが増す。


そんな私に向けて大場という奴はさらにしゃべる。





「この顔でわからねぇかもしれねぇーけど、この女はあの『巴御前』だぜ?」


「ともえごぜん・・・?あの歴史で習った源義仲の仲間の女武将?」


「ははは!実際、便利なヤリマンなんだろうけどな~『鬼姫』様?」


「ざけんな!あたしは大河達とは、色恋抜きのダチなんだよ!!」





大場の言葉に、『巴御前』、『鬼姫』と言われた少女が吠えたが――――――





「黙れ!」


「あう!?」




それで大場はカンナという子を殴る。





「やめろ!」


「女の子の顔を叩くな!」





円城寺という男子と一緒になって言えば、眉間にしわを寄せながら大場が私を見た。





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