第7話 彼を求めて、三千里(7)
声のした方を見れば、不景気そうな顔の男が花壇のブロック塀に座っていた。
黒の髪を軽く染めてオールバックにした少年だった。
年頃は、私と同じくらいに見えた。
「火、くれねー?」
そう告げる彼の口の端には、火のないタバコが一本。
「火。」
「え?・・・あ。」
(もしかして、私に声かけてるのかな・・・?)
周りに人がいなかったので、そうだと思って返事をした。
「ごめん。タバコは吸わないんだ。ライターもジッポも持ってない。」
「マッチは?」
「ないよ。」
「チッ!」
気に入らないという顔で、こちらに向かってつばを吐いた。
よくされる挑発行為だが、相手にはしない。
不快だけど、これを受けたところで、瑞希お兄ちゃんに会えるはずがない。
だから、知らん顔して行こうとしたが・・・
(待てよ。)
無視して歩こうとしてやめた。
(今夜は、こいつで最後にしよう。)
まだ、最終電車まで余裕がある。
一言聞くだけなら間に合う。
「あのさ・・・」
瑞希お兄ちゃんのことを聞こうと近づく。
それで気づいた。
「うわ!?どうしたの、それ!?」
「・・・あ?」
見れば、相手は全身血だらけだった。
(スカル服のデザインかと思ってたけど違う!)
血しぶき柄ではなく、本物の血しぶき。
かけよりながら聞けば、忌々しそうに男は言った。
「なんだオメーは・・・まさか、羅漢(らかん)の奴等かよ!?」
「らかん?」
「こんな時間に、この辺うろついてるなら、その関係者だろうがっ!?」
「違うよ。見ての通り、ごく普通のVファッションの未成年だよ。」
「俺も未成年なだよボケ!くっそ・・・!付き合ってられるか!」
吐き捨てながら言うと、腰をあげる男。
それに合わせて体を伝って地面に血が落ちる。
「だめだよ、無茶しないで!」
これでますます放っておけなくて言った。
「病院に連れていってあげるよ!さあ、行こう!?」
「うるせぇ触るな!」
助けようとしたのに、相手は私の申し出を拒否する。
「俺は行くところがあるんだ!離せ!」
「何言ってんの!?そんな怪我でどこに行こうって言うの!?無理だよ!」
「うるせぇ!メンツにかかわる!離せ!はなせっ!!ほっとけよ!」
「ちょ、ダメダメ!そんな怪我、放っておけな―――――――」
そう言いながら、男の腕を引けば、あっさりと私の方へと体を預けてきた。
「え?」
預けたというよりも――――――――
「ぐっ・・・」
「ええ!?」
私の方へと、彼は倒れ込んできた。
「わっ!?」
突然のことだったが、相手の重たい体を受け止める。
なんとか、両足で踏ん張って支えた。
「だ、大丈夫!?」
「・・・ねぇと・・・!」
「は?」
私の腕の中、さっきとは違う険しい顔の男子。
苦しんでいる表情。
そんな状態で彼は言った。
「大嵐山まで行かねーと・・・!」
「おおあらしやま?」
聞き覚えのない単語。
「どこにあるの?」
「あっちの・・・」
思わず聞けば、意外と簡単に返事をしてくれたが・・・
「あっちの、あれ・・・痛っ・・・!」
「えっ!?ちょっと、しっかり!」
そう説明する男の子の手が、指さした腕が、力なくだれる。
カクンと、ヒモが切れた操り人形のようにぶらぶらと揺れていた。
「ちょっと!?大丈夫!?しっかりしてよ、君!」
「ぐっ・・・うう・・・大嵐山に、大嵐山に行かねぇと・・・!」
呪文のように唱える男。
傷も痛むのか、数回うめいた後で動かなくなる。
静かになった。
(どうしよう・・・)
この状況をどうするべきか。
絶対に病院に運んだ方がいいとわかったが、相手は何かワケアリっぽい。
私自身もワケアリの身でもあるので、なんとなく・・・この時、彼に『同調』したのかもしれない。
自分の身に置き換えてしまったのだ。
(『大嵐山』に行きたいの?でも私、大嵐山がどこにあるのかわからない・・・!)
困ってあたりを見渡せば、あるものが目に入る。
「あっ!?地図だ!」
現在地をのせている公園の地図。
男をかかえながら、近付いて見る。
「大嵐山、大嵐山、大嵐山・・・・!」
携帯の明かりをライト代わりに、地図盤上で目的地を探す。
「大嵐山は・・・あ!ここかな?」
目的の3文字を見つけたのと、視界がまぶしくなったのは同じだった。
「見つけたぞ!!円城寺(えんじょうじ)!!」
「は?」
罵声と一緒に、エンジンのうるさい音がした。
瞬きして、周囲を見渡せば、ガラの悪い男達の集団。
「ヤ、ヤンキー!?いや、チーマー!?」
今までどこにいたのか、単車やスクーターにまたがった若者たちがいた。
(な、なにこれ――――――――!?)
[★凛は囲まれた★]
突然の包囲網に戸惑っていたら、一番偉そうな牛皮の時計をしていた男が言った。
「円城寺!!テメーを大嵐山に行かせるわけにはいけねぇんだよ!」
「え?大嵐山を知ってるの?」
「あん?つーか、誰だお前!?見かけねぇー面だな?円城寺の仲間か!?」
「違う。」
牛皮の時計をしている男の問いに、私の腕の中にいた怪我人が言った。
「RPGの中じゃあ、オメーと同じ一般庶民だぜ、雨宮~?」
「それがオメーの遺言か・・・円城寺・・・!?」
「あの・・・・?」
にらみ合う2人を前に、私はとんでもなく面倒なことに巻き込まれているのかもしれないと思った。
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