第6話 彼を求めて、三千里(6)
顔へと手を伸ばし、鼻と口を覆っているバンダナを直す。
そして、布越しで大きく息をはく。
思案する。
(ここを探すのも、今日が最後かも。場所を移動する・・・時期なのかもしれないしね。)
瑞希お兄ちゃんを探しに行くのは、いつも地元から離れた場所だった。
あの時に乗った路線は覚えていたので、それを頼りにそれらしい場所を探している。
この6年でそれらしいところをすべて回った。
それをもう一度、回り直していた。
え?
なんでそんなことするかって?
だって、私が聞いたその時に、知ってる人がいなかっただけかもしれないでしょう?
しかも私の聞き込みは、継続で、出来てるわけじゃないの。
テストがあったり、おじいちゃん達の実家に行ったりとか、毎週、毎日探せるわけじゃない。
だから、取りこぼしがないように行った場所にまた行ってるんだよ。
今回はまだ、高校の入学前の休み期間だから、多少の無理が出来る。
明日も探せるから、諦めもついた。
チャンスはあると思いながら、駅へと向かって歩いた。
それでも。
諦めて帰るしかない・・・この時間が嫌だった。
(あの時、瑞希お兄ちゃんの名字と一緒に、チーム名を聞いていれば・・・)
瑞希お兄ちゃんの両腕に書いていた四文字熟語。
覚えていたが、肝心の看板を、チーム名を見ていない。
「はあ?『不羈自由(ふきじゆう)』に『百鬼夜行』ってチーム名の族ぅ~?」
「聞いたことないわ。ないない。」
「『百鬼夜行』なら、俺も特服に入れてるけどよー」
私の記憶にあったのは、どうでもいい情報。
暴走族の多くは、チームの名前は胸ポケットや背中に書いているらしい。
統計的にそうみたい。
上着がロングだったりすると、すそ部分に書かれているそうだ。
しかし、あの時の瑞希お兄ちゃんが着ていたのはショートの上着。
そうなると、背中に書いていた可能性が高い。
(それなのに・・・!)
バイクの後ろに乗せてもらったのに。
おんぶしてもらったのに。
(瑞希お兄ちゃんの背中という特等席に、至近距離にいたというのに・・・!)
見てなかった・・・!!
見ないどころか・・・・!!!
”瑞希お兄ちゃーん、やわらかーい”
”こらこら、くすぐったいだろう?”
(ずっとお兄ちゃんのほっぺに、自分のほっぺをくっつけて話していた・・・。)
甘えることを優先してしまった・・・・!!
「まぁ・・・それはそれで、瑞希お兄ちゃんに触れたからいいけど。」
その件に関しては後悔していない。
すべすべの肌、触れて嬉しかった。
サラサラの髪、良い匂いがして、ドキドキした。
(変態か・・・!)
自分で自分にツッコミ。
は!?
あ、うん・・・だからそのね、うん・・・
・・・。
・・・。
・・・。
――――――――――そう!それに、背中だけしか書かないって人ばかりじゃないの!
[★凛は、都合の悪い話を誤魔化した★]
だからね!腕部分に書く人もいるらしいから!
だから、瑞希お兄ちゃんもそうだと思って―――・・・!
そう願ってたんだけど・・・・
「『不羈自由』も『百鬼夜行』も、俺らの県じゃあ、聞かないチーム名だ。多分、ないんじゃないか?」
ある時、夜の店で働く暴走族のOBのお兄さんが教えてくれた。
「俺が現役の頃も、その前も、そういうチームのことは聞いたことない。」
「そう・・・ですか。」
「そうだ!ほら、わかったら、5000円だしな。」
後にも先にも、お金で情報を買ったのはそれっきり。
樋口一葉がおしかったわけじゃない。
ただ、お金を使ったところで瑞希お兄ちゃんには会えないとわかって馬鹿らしくなっただけだ。
(瑞希お兄ちゃんを探し始めて6年・・・もうすぐ7年がくるけど。いそうにないんだよね・・・)
まったく見つかる気配がしない。
こういう時、いつも思う。
どうして、9歳の私は【瑞希お兄ちゃんのこと】を聞かなかったのか。
(瑞希お兄ちゃん自身のことを聞かなかったのか。)
魔法使いがいれば、探すのを協力してもらえるのにな。
いや、そんな夢を見るならば、探偵に依頼した方がいいよね。
ぶっちゃけ、そうしたいけどさ、未成年の依頼はダメだって言って受けてくれなかったんだよね。
だからやっぱり―――――――――
(自力で探すしかない!)
それが結論。
これが現在の私のやるべきこと。
今、彼がどこにいるのか。
なにをしているのか。
全く知らないまま、瑞希お兄ちゃんとの出会いを思い出だけにしたくない。
「・・・・・後悔しても仕方ない。」
何十も何百回も、瑞希お兄ちゃんに会いたいがために後悔している。
何年も・・・・まるでストーカーのように探し回っている。
他の人が聞けば気持ち悪がるかもしれない。
私がこんなことをしてると瑞希お兄ちゃんが知れば、嫌な顔をするかもしれない。
それも・・・
「それでもかまわない。」
(納得できるまでしないと、後悔に後悔の上塗りをしちゃう。)
私は会いたいだけなの。
(瑞希お兄ちゃんに会いたいだけ・・・)
――――――――――ジャア、ソノアトハ?
(瑞希お兄ちゃんに会えたら・・・?会えた後は・・・)
「私はどうしたいのだろう。・・・」
彼と再会できた時、私はなにを話す?
最初は、お礼を言いたかった。
だけど・・・時間が経つにつれ、あの人の笑い声と楽しそうな笑顔、すべてが愛しくなっていった。
「会いたい・・・・」
天を仰いでから、うな垂れた。
それに合わせ、視界で光るもの。
「あ」
闇夜で揺れるウサギ。
「手がかりも、バンダナと、『この子』だけか・・・」
目覚めた時、私はお兄ちゃんが貸してくれたバンダナを握っていた。
それと一緒に、腕に感じた冷たい感触。
腕にはめられていたウサギのブレスレット。
「あ・・・これ、瑞希お兄ちゃんのブレスレット・・・!?」
両親へ連絡する警察官の側で、綺麗な細工の腕輪をずっと見つめていた。
可愛いと言った私に、瑞希お兄ちゃんはウサギのブレスレットを見せてくれた。
瑞希お兄ちゃんを「お姉ちゃんかも?」と思った懐かしい品。
そのまま、持ってろと言われ、腕にはめてもらって身に着けていた。
貸してくれた可愛いブレスレット。
瑞希お兄ちゃんが忘れていったアクセサリー。
(私へ、残していってくれたかもしれないブレスレット・・・)
「瑞希お兄ちゃん・・・」
そんな自分の思い上がりもあって、そっと腕にはめていた。
これを見て、瑞希お兄ちゃんが私だとわかればと願う。
いつもは、腕につけるという無防備はしないが、時々、こんな風に腕に付けてほうけていた。
ハンカチ代わりに借りたバンダナもそうだ。
洗濯したバンダナと一緒に返そうと、肌身離さず持ち続けた思い出の品。
長い月日の中、ブレスレッド同様、痛まないように保護してきた。
磨いて拭いて、手入れをおこたらなかった。
大事にした分だけ、瑞希お兄ちゃんへの思いも強くなった。
(瑞希お兄ちゃん、瑞希お兄ちゃん、瑞希お兄ちゃん。)
もし、神様がいるなら、私が願うのはただ1つ。
(もう一度、瑞希お兄ちゃんに出会って、バイクの後ろに乗せてもらって――――――――)
昔よりも強くなれた私を見てもらって・・・。
「・・・・瑞希お兄ちゃんに・・・。」
この6年間で芽生えた気持ちを。
「大好きだって・・・・・」
(あなたを愛していると、伝えてもいいですか・・・?)
子供の好きではなく、女としての好きを伝えたい。
(瑞希お兄ちゃん、愛してます。)
大事に温めてきた気持ちをあなたに―――――――――!!
「よぉ、煙草の火ぃ貸してくんねぇか?」
「え?」
夢心地で浸っていたら、真横から低い声が響く。
それで私は、現実へと引き戻された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます