第5話 彼を求めて、三千里(5)





(それを思えば、声かける人がいて、喧嘩を売られなくてよかったと思わなきゃ・・・)






そう自分に言い聞かせる。


とはいえ、残念なことには変わらない。


今夜3組目のヤンキー集団の返事に、収穫がなかったことにガックリはした。


そしてそんな彼らから離れようとしたら、突然服を引っ張られた。






「ねぇ。」


「え?」





思わず身構えて、目だけで見る。


私の服を引っ張るのは、派手な金髪の少女。





「その服、V系で流行ってる服じゃないの?」





見る限り、聞く限り、表情も声からしても、敵意は向けられていない。





(因縁つけてきてるわけじゃないか・・・)





それに静かに安心しながら金髪少女に答える。


やんわりと微笑みながら告げた。





「どうかな・・・『アニキ』がいらないって言ったのをもらったから。」



もちろん兄なんていない。


私は一人っ子。


そういう理由は、簡単。





自分を守るための嘘。






「え!?お兄さんいるの!?あんたみたいに可愛い!?」


「は?」


「おい、アリア!」


「ナンパするなよ~」





少女の問いに目を丸くすれば、彼女の仲間が笑いながら言う。





「面食いな~アリアちゃんは!」


「そのまま押し倒すんかよー?」


「ば、馬鹿!そうじゃねぇーし!」



「あははは・・・じゃあ、さようなら。」






彼らが笑っているうちに、全力ダッシュで逃げた。


後ろから何か言われたが、無視して遠ざかる。


瑞希お兄ちゃん探しをしていると、こういうことが時々ある。






「今日は、V系ファッションが好きな子が多いな・・・」





特に今日は、いつもとは違うビジュアル系の服を着ていた。


買っているファッション雑誌になんとなく応募して、見事当選した品。




(・・・ヤンキーファッションの中じゃあ浮くけど・・・たまには違う路線もいいよね・・・?)




時々、着ている服のことを言われる。


私の身体的特徴や身につけている物をネタにされる。


今日は服だったが、いつもは口元のマスクのことでいじられる。





「顔、半分隠してるけど、ちょっと見せてよ。」


「見せたら、瑞希って奴のことを教えてやるよ。」




そんな彼らからの要求を、最初は素直に聞いていた。


しかし、見せた後の彼らの反応は同じで・・・






「わりぃ、知らねぇんだ。」


「瑞希なんて、知るわけないじゃん?」





(・・・私の顔見たさに言うだけだったんだよね・・・・!!)




〔★見せ損である★〕





だから、途中から見せるのをやめた。


そういう風に話を振ってきたら、【瑞希お兄ちゃんのことをこいつは知らないのだ】と思って話を切り上げるようにした。


それでしつこく追いかけてきたり、無理やり腕力で言うことを聞かせようとするような奴は、拳を持って返り討ちにした。


ただ、そういう奴らばかりじゃない。


笑われたりすることもあるが、趣味が同じだと言われることもある。





「俺もそれ持ってるぜ~デザインがヤバいだろう?」


「着やすいし、安いしで良くねー?」


「今度、○○店で安売りするから行ってみー!」




みんながみんな、悪いヤンキーだとは思えない。





(そもそも、どこが危ないの境界線なんだろう・・・?)




一般人という世界に、ピンからキリがいるように、ヤンキー世界もそうらしい。







(瑞希お兄ちゃんは・・・どうしてその世界に入ったんだろう・・・?)






結局彼は、そのことを話さなかった。


私の愚痴だけ聞いて終了。


最後まで、嫌な話に付き合ってくれた。


初対面でそこまでしてくれる人はいない。






(だからこそ、もう一度会いたい・・・・!!)






そう考えながら公園を出た。


携帯をもう一度見る。


私に残された時間を知って、ため息が出た。






(もうすぐ終電の時間・・・今夜はこれで終わりね。)






瑞希お兄ちゃん探しは、夜の限られた時間しかできない。




昼間でも出来ないことはないが、朝や昼に群れているヤンキーを見かけることは少ない。


学校にいるヤンキーの子達も、明るい時間に学校にいるのをあまり見ることはない。


朝から来ていることの方が珍しい。


来てるなと思ったらもういない。


今日は来ていないと思えば、下校時間の校門でたむろしていたりする。


ヤンキー同士、集まって話をしてる。


内緒で瑞希お兄ちゃんを探してるから、声をかけられない。


同じクラスのヤンキーっぽい子にすら、私は話しかけられない。


なんとなく、話しかけたくない。




私の大事な話を、他の誰かにしたくない。


身近だった両親でさえ、拒絶したこと。


探していると言って、協力してくれるとは限らない。


からかわれて、ネタにして遊ばれるような気がした。


現に、私の身近にいるヤンキーはそういう子達ばかりだ。





偏見かもしれないけど・・・・言えない。





気持ちだけじゃなくて、立場的に言えない。




小学校でも中学校でも、私は「普通の優等生」という立ち位置にいた。




不良からすれば、「気安く声かけるな、真面目ちゃん?」である。




だから単体でいても声をかけられない。


一対一でも、話しさえしてくれないだろう。




だから、声をかけるなら、夜の暗がりで顔の形がごまかせる時間帯。


口と鼻をバンダナで覆うことでパッと見、判別できない。


声は誤魔化せているかわからないが、人は見た目で判断する。


平凡で真面目そうな子が、こんな姿をするはずがない。


そんな先入観を頼りに、今日までやって来た。




やってこれた。





(知られてはいけない。)





私、菅原凛が暴走族探しをしていることは、バレてはいけない。





両親の立場上、いい子でいなければいけない。


「会うな」と言った彼らへの反発と、「嘘をついている」という子供としての親への罪悪感からだ。




このことは、友達にも言えない。


相談できない。


言えないじゃなくて、言わない。




だって、私自身の問題だから、友達を巻き込むつもりはないの。


だから、言うつもりはない。


相談もしない。




秘密を守ろうと思えば、私自身が言わないのが一番いいことだとわかっていた。





・・・もしかしたら・・・。




口と鼻を隠す姿を選んだのは、そんな私の『無自覚な気持ち』の表れなのかもしれない。





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