第4話 彼を求めて、三千里(4)







「・・・・・・・あれから6年。」








過去を回想して私は思う。










「どうして年齢と住所と電話番号とアドレスとチーム名と、みょ・う・じ!を、聞かなかったんだぁぁぁ!!?」








夜の公園、大音量で叫べば、その辺りでいちゃついていたらしいカップル達が顔を出す。






「ちくしょう!!」





痛い視線をものともせず、私は今日も後悔していた。







(あの時・・・眠ってしまった私を瑞希お兄ちゃんは、私の家の最寄の駅まで運んでくれた!!駅の近くの交番に、私を残して去って行った!!保護したおまわりさんの話では、パトロールが終わって戻ったら、私が交番の中で寝ていたってことだけど・・・!!)




私が家出した日、両親は捜索願を出していた。


再会した父母は、私を怒りはしたが、心配してくれていた。


家に帰ってから、両親が私に互いの悪口を言い合うことはなかった。


意見のずれでの対立は続いたが、いつもの日常に戻った。


それで、めでたしめでたし、だったはずだけど・・・・







「瑞希お兄ちゃんに会いたい!」


「凛、またその話なの?」


「気持ちはわかるがあきらめろ。どこの誰かもわからないんだぞ?」


「わかるよ!名前は瑞希って言うんだよ!」


「それだけ言われても、探しようがないわ・・・」






呆れる母の言葉通り、瑞希お兄ちゃんは見つからなかった。


わかるのは名前だけ。




【瑞希】という名前。


それ+暴走族。




名字もそうだけどが、チーム名を聞かなかったことが痛手だった。


どこの中学だ、高校だと、探すよりもチーム名がわかった方が早い。


探しやすい。


ただでさえ、出会った場所が適当に乗った電車が行き着いた先だったので、正確に覚えていない。



わからない。



おまけに両親は、相手が『暴走族』と聞いた途端、目の色を変えて探すのを反対した。






「親切にしてもらったことだけ覚えておきなさい!」


「わざわざ探し出すなんて・・・走っている車に体当たりするようなものだぞ!?」



「お母さん、お父さん・・・」




「「ヤンキーなんだから、会うのはやめなさい!!」」





(・・・・差別だ。)





暴走族というまで、何が何でもあってお礼をしたいと言っていたくせに。





両親の言葉によって、世の中の不条理を感じた瞬間。






(偏見だ・・・。)






同時に、そんなんだから世の中から戦争がなくならないんだとわかった。







瑞希お兄ちゃんが暴走族だとわかってから、彼の話題は我が家の『禁句』になった。


両親が探さないのならと・・・私1人で行動を起こせば、『親という立場』を使って邪魔をする。







「・・・だから、内緒で探してんだけどね・・・・」






毎晩、夜になったら自分の部屋を抜け出して【瑞希お兄ちゃん】を探していた。


瑞希お兄ちゃん探しは、いろいろと危険をともなっていた。


最初の頃、小学生の時は、補導されて自宅まで送られたことがあった。


それで両親に叩かれ、怒られ、あきらめたふりをしたけど・・・






(やめなかった。)






そのことを教訓(?)に、やり方を変えた。


まず、塾の帰りにこっそりと下見と見回りをした。


補導する大人達の顔を覚えること。


見つかりそうになったら回避して、捕まりそうになったら逃げた。


捕まっても振り切るようにした。


回数を重ねるごとに、相手も私を覚える。


だから、私だとばれないように、髪形や服装を変えて変装した。


伸ばした髪の毛をくくったり、降ろしたり、アイロンでカールをかけたりして変身した。


そのうち、ショートヘアーだと変装するのが簡単だとわかった。


それ以後、今日までショートを保っている。


瑞希お兄ちゃんのことをたずねる相手は、ほとんどがヤンキー。


声をかけて怒られたり、無視されたり、からかわれたり。


カツアゲされたり、リンチされかけたけど・・・防いだ。







「話しかけただけで、殴るようなことしないでよ?」


「いっ、痛ててててえ!!?」






向けられた拳を、何度ねじったことか。




瑞希お兄ちゃんは言った。





強くなれ、と。






だから私は、『こんな危ない世の中、護身術習わないのはおかしいよー怖いよー』と両親に、ほとんどしないわがままをして格闘技を習わせてもらった。


基礎を学び、習得した技で、なぜだかわからないけど、因縁つけてきたヤンキー達をしばいた。







瑞希お兄ちゃんを探すため、体を鍛えて強さを磨いたのだった。



〔★方向性が違った★〕



服装にも気をつけた。


ヤンキー風のジャージで聞きまわったり、つなぎっぽいのを着て聞き込みもした。


相手に同化する。




名付けてカメレオン戦法!!




〔★凛は新技を身につけた★〕





さすがに髪の色は変えるわけにはいかなかったので、バレないように・・・時々ヤンキーの子がしている口元をバンダナで隠すというファッションを取り入れた。


こうすれば、私だとバレない。




(そういえば・・・瑞希お兄ちゃんが私の涙をふくようにって渡してくれた布・・・あれって口元を隠すためのバンダナだったんじゃない?)




瑞希お兄ちゃんもしていたと思えば・・・鼻と口での呼吸がつらくても耐えられた。


強くなるための修行、酸素の少ない登山をしているのだと思ってやっていたら慣れた。



それだけしたからには、話しかけるヤンキーも慎重に選んだ。


男ばかりだと、喧嘩やカツアゲに発展しやすい。


女ばかりだと、からかわれたり、しつこく身元を聞かれた。


だから、男女でいるグループに声をかけた。


男女でいる場合、だいたいが話を聞いてくれる。


ただし・・・・








「瑞希って名前のヤンキー?」


「わかりますか?」


「そんだけじゃね~わかる、大樹?」


「わかるかよ!俺らの先輩にゃ、瑞希って名前の人さえいねーぞ。」


「そうですか・・どうもありがとう。」






それで見つかるかと言えばそうではない。




〔★世間は厳しい★〕




(そもそも、瑞希お兄ちゃんと出会ったのが、デタラメに乗った電車で降りた場所。どの駅で降りたのか覚えていない。)




漠然(ばくぜん)とはしていたが、大体の範囲はわかる。


だから、それらしい場所をチェックしていって、探すという方法を取っているので・・・・





(・・・探す範囲が広いのよね・・・)





とりあえず、目的地を絞り、往復時間を計算して出掛ける。


記憶に合うコンビニを探しながら、知ってそうな者達に話しかける。


しかし、行った先に必ずヤンキーがいるとは限らない。


それっぽい人さえいない時もあった。


両親に気づかれないことが前提なので、探す時間は限られていた。


終電前までの捜索と決めていたので、遠い場所になると探す時間に余裕がない。


そのため、何度も足を運ぶ羽目になったが、やっぱり見つからなかった。


運が良ければ、聞き込みが出来る。


悪ければ、フラフラして終了。


あるいは、絡まれてストリートファイト&補導目当ての警察に終われる。





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