時の流れ

 10才下の弟のいつきとは20歳になったばかりだった。弟とのやり取りに何も言わず、ただ黙って、住職は見守られている。その空気感がとても親切な気持ちにさせられた。樹に、本当のことを言わないといけない。

 1年前に亨の死んでしまった。それから、どこかで春香は重い秘密のようなものを背負わされている感じがした。それを樹にまで、背負わせるのはどうしてもできなんかった。あれは、不運な事故だったのだ。春香は自分に言い聞かせていた。ただの自動車事故だった。でも違う。あれは、計画的に殺されたのだ。

 5年前に私たちの両親はなくってしまった。車同士の接触事故で亡くなった。相手の車の飲酒運転だった。相手の女性も亡くなってしまっている。

 

「樹、あなたはその自殺サイトを見たの?」

「見てないよ。聞いただけだ」

「誰に?」

「美織さん」

「そう」

 嫌な名前だ。亨と付き合っていた女の名前だ。樹はその女を慕っていたので、どうしても、批判的な言葉が出てしまう。そうすると、樹とは話し合いにならない。それに美織も亨と一緒に亡くなっている。


「話し合いは無理そうですか?」

 住職が静かに問いかけ来た。

「そうですね。」

「本当のことは言えないんですね」

 何かを見透かされた気がした。

「何?どういうこと?」

樹が問う。春香ではなく、住職の方を見ている。

「私は何も知りませんよ。でも言えないのでしょう。姉弟だから」

「ねえ、春香教えてよ」

 姉の呼び方が困って、今は呼び捨てなってしまった。その目で訴えるように言われても、答えられない。

「でも、春香さんは、亨さんは自ら命を絶ったとは思ってないのでしょう」

 どこか導くように、住職が言った。

「まあ、亨と付き合っていた美織という女性の仕業だと思います。美織は、私たち両親が乗っていた車と衝突した車の運転手が美織の母親だったみたいです。その母親の敵をとりたかったのでしょう。自殺サイトはよくわかりませんが、彼女は、亨を巻き込んで死にました。」

 住職が、穏やかな顔でこちら見ている。それに対比するように、樹は困惑している様子だった。

 どんな真相をあったとしても、亨はもどってこない。

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