時が思考を停止させ、また動き出す。

一色 サラ

思考


「こんばんは」

 紺に近いワンピース姿で春らしいカーディガンをきた女性が、住職をしている清光きよみつに挨拶をしてきた。少し後ろには黒に近いスーツを着た男性が少し会釈しているのがみえた。

「お墓参りですか。精が出ますね」

 彼らはこちらに向かってゆっくり歩いてくる。

「あ、すみません。この寺ではあまり住職さんを見かけることがなくて、つい挨拶してしまいました」

 女性の笑顔は素敵だったが、少し寂し気だった。流石に墓参りとはそういうものなのだろう。

 そうえば、こんな時間には、清光は寺の外に出歩くことがなかった。清光は、昼の3時過ぎは、ほとんど町の家を訪問して、仏壇のお経を読みに行くことが多い。ただ、今日は珍しい寺に居て、たまたま境内に出たのだ。

「少し、上がられ行きますか?」

 なぜだか、彼らを寺の中にへと案内してしまった。何が言いたげな様子に、彼らの話を聞いてみたくなった。

「はい」

女性が答えて、男性はトボトボと後をついて来た。


 寺とは少し涼しげなのだろう、男性が寒っという声が聞こえてきた。

「墓参りはいかがでしたか?」

「はい。あの墓には、僕の兄と両親と、先祖が眠ってします。両親は事故で、兄もそれに続けて」

 男性が言うと、女性は男性の顔をチラッと見て、清光はの方に顔と向けた。

「私はたつきと、死んだとおるの姉です。」

 彼らは自らを質問もしていないのに、何をアピールするように話している。

「まあこちらに」

 清光は床に座布団を引いて、話を聞くい事にした。2人ともよそよそしく、お互いが気を使っていて、本音が話せない気がした。まあ、今日は、時間もあることだし、聞いてみるのいいのだろう。

「お兄さんとは、仲はよかったですか?」

「そう見えますか?」

 質問を質問で返す場合は、良くないことは分かっている。でも、あえて聞いてみた部分もあった。死別とは、死人に口なしというほど、聞きたくても本人から答えを出してもらえないのだ。この姉弟がここに来たことは何か意味のあることなのだろう。


「兄がなぜに死んでしまったのか分からないのです。あれほど、恵まれていたのに。」

「何度も言うってるけど、自殺じゃないから」

姉弟の考えは食い違いがある。弟は兄が自殺をしたと思っている。けど、姉は自殺ではないと言っている。

「だったら、何で自殺サイトの集まりで兄貴が一緒に車で死んだんだよ」

「それは...」

 清光は、2人の会話を止めずに聞くことにした。こんな時、第3者の清光がいるほが、姉弟は話は話しやすいのだろう。死とは誰かが招くものだろうか。思考が動きだす。

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