第10話 後回しにした想い

 ★★★


 強引に誘っちゃったけど、私よくやった!


 心の中でガッツポーズした。


 しかも藤木くんからプレゼントまで貰っちゃった。


 それに、藤木くんの面白いところまで見れちゃった。


 お揃いがいい、とか変なこと呟いちゃったけど、一切触れずにUFOキャッチャーやってて、一生懸命なのに取れなくて。


 思わず笑っちゃった。


 ……………今更だけど、嫌な人だって思われていないよね?


 やばい。不安になっちゃった……!



 そういえば藤木くんってゲームが好きだって言ってたよね。


 もしかして、好きな女性のタイプが”ゲーム得意”だったりするのかな。


 やばい、さっきのUFOキャッチャーでゲーム下手披露しちゃった。


 あぁぁぁぁぁぁ聞いておくべきだったあぁぁぁぁぁぁぁ!


「どうしたの? あ、もしかして周りの音うるさすぎて疲れちゃった?」


 藤木くんが心配そうに私を見てきた。


「ぜ、全然全然!」


「そう。なんか苦しそうな顔をしていたかって、思ったけど。何もないなら大丈夫か」


 しまった。心の嘆きが顔に出てしまっていた。


 気を付けないと。


「渚波はマリオカートとかやったことある?」


「あ、うん! 昔、よくお姉ちゃんとやってました」


「じゃあ、あれやろうよ」


 藤木くんが指差した先には、マリオカートがあった。ちょうど2席空いている。


「マリオカートってゲームセンターにもあるんですね」


「ゲーセンにしかないアイテムもあるし、写真機能もあるんだよ」


 楽しそうに語る藤木くん。


 せっかく2人きりで遊べるんだ。


 余計なこと考えてないで、楽しまなきゃ損だよね。


「うん!」


 その結果、とても楽しめた。


 マリオカートでは中盤までぶっちぎりで藤木くんが1位だったけど、最後に隣で一緒に遊んでいたカップルに青いトゲトゲの甲羅を飛ばされて1位を逃したり。


 太鼓の達人で鬼を叩いて2人ともノルマ達成できず、復活するために筋肉痛になるほど連打したけど駄目で笑いあったり。


 すっごい楽しい。


 ゲーセンがこんなに楽しいところなんて知らなかった。


 でもきっと、藤木くんと一緒にいるから楽しいんだ。


「さて、次は何やろうか~」


 あっ―――。


 ちょっと離れたところに、プリクラ機がある。


 一緒に撮りたい。2人で初めて遊んだ記念に。


「あ、メダルゲームだ。懐かしい」


 藤木くんがプリクラ機から遠ざかっていく。


 言うなら今しかない。


 言わないと。


 …………………むり。

 

 頑張って口を開けて見たけど、声が出なかった。


「ん? どうしたの?」


 心配そうな顔で私を覗いてくる。


「ううん、なんでもない」


「そうか。どうする、メダルゲームやってみる?」


 私は笑顔で頷いた。


 意気地なし。


 でも、これで正解な気がする。


 まだ2人でプリクラを撮るのは早い。多分、藤木くんも困るだろう。


 ゆっくり、自分のペースで距離を詰めていければいい。


 今度ゲームセンターに来た時、今より少しだけでも距離が縮んでいたら、撮ろう。


 ★★★


 こんなに楽しいとは思わなかった。いつの間にか1時間もゲーセンの中にいた。


 この時間がいつまでも続けばいいのにな。


 そう思っても終わりの時間はやってくる。


 時間は16時30分過ぎ。


「遊び尽くしたな〜」


「そうですね! めちゃくちゃ楽しかったです!」


 渚波は笑顔で頷いた。最初ゲーセン連れてきた時は後悔したけど、マジで来てよかった。ナイスだ、俺。


「このあとどうする?」


「あ、ここから近くの公園に美味しいアイスがあるんですよ。食べに行きません?」


「いいね! 行こう!」


 ゲーセンの出口へ向かって歩いていると、中学生の頃ハマった乗り物系のホラーガンシューティングゲームがあった。


「へぇー、新しいのでたんだ」

 

 懐かしい。基本2人プレイなんだけど乗り物に入るから周りの目が気にならなくていいんだよなぁ。


 一度クリアしてから離れていたけど、やっぱ新しいのが出ているとやりたくなるよなぁ。


「……藤木くん、あーゆーの好きなんですか?」


 渚波がゆっくりと訊いてきた。


「え? ああ、好きだね。ガンシューティングとホラー系ばっかやってる」


「ホラーって、もしかして……ば、バイオハザードとか?」


 そう訊く渚波の顔は、青ざめていた。


「そうそう。バイオ知ってるんだね。好きなの?」


「お姉ちゃんが好きだったんです。どちらかというと私苦手で……」


 渚波の顔に影が差す。


「そういえば、さっき姉がいるって言ってたよね」


「はい、大学2年生の姉が。あと、中3に妹がいます」


「へぇー、そうなんだ。羨ましいけどなぁ」


 一人っ子の俺としては、男でも女でも、年上でも年下でもいいから兄妹が欲しかった。一緒にゲームしたり、喧嘩したり、買い物したりしてみたかった。


「そんなことはないです」


 きっぱりと断言する渚波。


「特にお姉ちゃんと同じ部屋だった時は、やっているところを強引に見せられて……。そのころのトラウマもあって、ホラー系が苦手なんですよね」


 ずーんと沈む。


 このゲームは気になるけど、渚波を巻き込むのはやめよう。


 渚波を置いて一人で楽しむのも違うし、克服しようという試みも余計なお世話だし。2人で楽めなきゃ意味がない。


「じゃあ、渚波が言ってたアイス屋に行こう」


「はい」


 俺達はホラーゲームの筐体きょうたいを通り過ぎて出口へ向かった。


「……でも、やっぱ姉妹ともなると喧嘩するもんなんだな」


「もうたくさんしてきましたよ! 今は仲が良いんですけど…………中学生の時なんか事あるごとに喧嘩してて」


 意外。


 普段の感じからして、家とかでも優しいものだと思ってたけど。


 でも、懐かしがりながら語るところを見る限り、喧嘩した日々も悪くなさそうだった。今では良い思い出なんだろう。


「へぇー、渚波のお姉ちゃん、バイオ好きなんだ」


 自分と同じ好みの人がいることを知って、思わず独り言ちた。


 山下も渚波と同じでホラー系が好きじゃない。


 奴は特にギャルゲーマーだが、ホラー要素のあるギャルゲーは、例え神ゲーといわれるものでもやらない。


 だから山下とゲームの話が完全に合うわけではない。


 その点、渚波のお姉ちゃんはバイオが好きだと聞く。


「気が合いそう。一回話してみたいな」


「―――っ」


 渚波の肩がぴくっと動き、出口の前で止まる。


「……どうしたの?」


「やりましょう、あれ」


 指差す先にあったのは、さっきのホラーゲームだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る