学校1位の彼女が、なぜか俺にだけ妙にぎこちない。若干ポンコツ?

taki

プロローグ 運命の寝落ち

 昼休み。


「はぁー」


 教室の中心で、俺はため息をついて机に突っ伏した。


 昨日の午後9時にカクヨムに投稿した『学校で一番人気のあの子が路上ライブでベースを弾いているのを、俺は知っている』の最新話が、現段階で4PVしかされていない。


 一昨日おとといから睡眠時間を極限に削って書いた、渾身の話だったんだけどな。


「はぁー」


 もう一度大きくため息を吐いた。


 俺—―――藤木ふじき良介りょうすけは、作家を夢見てカクヨムに小説を投稿している高校2年生。


 ペンネームは有栖ありすリオン。


 ……中学2年生の時からつけている名前だからイタイのはわかっている。


 でも、今更変えられない。もしかしたら俺のファンがいるかもと思うと、変えにくい。


『学校で一番人気のあの子が路上ライブでベースを弾いているのを、俺は知っている』は、2ヵ月前から書き始めた、俺の5つ目の小説だ。


 ジャンルはラブコメ。


 学校で一番人気のヒロインが、皆に内緒で路上ライブしているところをたまたま主人公が発見したことから仲が進展していくという、お決まりのパターン。


 過去、自分が一番悩んでいた時期に公園で偶然出会った、路上ライブをやってた女性にインスピレーションを受け、勢いで書いたものだ。


 現在34話まで掲載しているが、総PV数は758。☆5。応援コメント0。ラブコメジャンル1284位。


 色々な自主企画にも参加して、この結果である。


 あくびをしながら、俺はダラダラとスマホをポケットにしまった。


 中学の時に結果を残していた陸上部に入らず、バイトせず、学業もおざなりにしてまで書いているんだがな。


 気付けばもう高校2年生の中盤。


 現在ではラノベで描かれている青春とは程遠い高校生活を送ってしまっている。


 このままじゃ俺、作家になるどころか、大学にすら入れないんじゃないか?


 作家になれないんなら、せめて良い大学は出ておきたい。


 受験に向けて、ちょっとは勉強しておくか。


 えっと、次の時間は…………古文か。


 げっ。


 今日、古文単語テストあんじゃん。


 勉強すっか……………無駄だと思うけど。


 でも人間に生まれた以上、無駄な足掻きくらいしたい。


 昼休みの時間全部勉強にあてたら、少なくとも2点くらいは上がるだろう。


 机の中に入れっぱなしの古文単語帳を開いたその時、教室の扉から可愛らしい声が聞こえてくる。


「そういえばミオミオ、この間バスケ部の佐藤先輩に告白されてたでしょ」


「え、なんで凛子りんこが知ってるの?」


 聞いただけで心臓が高鳴る声。


 勉強に対する集中力の無さが恨めしいが、声のする方に目が行くのを止められない。


 見ると、クラスで一番輝いている女子3人のグループが売店から戻ってきたところだった。


「そりゃあね。佐藤先輩、みおに告白してくるって友達に言ってたし」


「えー」


 この困った顔をした人物こそ、学校1番人気の女子、渚波なぎさわみお


 表情次第で可愛いにも綺麗にもなれる顔と、出るところは出て締まるところは締まっているモデル体型。


 加えて、アンチすら湧かせない抜群の愛嬌と性格で去年のミスコンはぶっちぎりの1位。


 容姿だけかと思いきや、成績も学年トップ。

 

 かといっておごらず、自慢せず、常に謙虚。


 授業態度も完璧。内職とか居眠りとか一切していない。


 渚波澪を好きになるのは誰もが通る道、と言われるほど。


 まさに完璧ヒロイン。


 実は、いま投稿している小説のヒロインのビジュアルは渚波澪をモデルとしている。


 モデルである路上ライブの女性は、夜に出会ったこともあって顔とか体型がよく見えなかったので、渚波を勝手に使わせてもらった。ごめん。


 それに、俺が人生で出会ったなかでぶっちぎりで一番の美人だったし。


 ちなみに、そんなパーフェクトヒロインである渚波の隣の席を俺はくじで掴んだ。


 くじを引いた時は手が震えた。


 しかし、人見知りを発動して全然話せていない。目を合わせることすらおこがましいと思ってしまう自分の卑屈さが恨めしい。


 チキンな俺だが、実は一度だけ話したことがある。


 高1の体育祭の時。


 偶然、彼女が落としたハンカチを拾って渡した。


 たったそれだけ。


 ついでに俺は渚波の事を知っていたけど、あっちは俺のことを知らないようだった。


 でも、この渚波を助けたという思い出と席が隣りというだけで満足している。


 意気地無しと言われようと、話しかけることはしない。


 話しかけても、その先に至ることは無いのだから。


「ねぇ、なんで振ったの?」


 牧野まきの凛子りんこの疑問に、塩島しおじま沙良さららが続ける。


「佐藤先輩ってかっこいいし、澪とお似合いだと思うんだけどなぁ」


 2人とも可愛い。類は友を呼ぶってやつだな。それでも渚波は3人の中でとび抜けているけど。


 しかし、凄いな。佐藤先輩といえば、去年のミスターコンテスト1位だぞ。


 そんなな人を振ったのか。


「そんなこと言われてもなぁー。佐藤先輩のことよく知らないし、好きじゃなかったから」


 渚波は困っていた。


「じゃあ、誰ならいいのよ?」


「うーん、好きな人出来たことないからわかんないなぁ〜」


「でた。澪の好きな人出来たことない発言。あーあ、こんなに可愛いのに、青春枯らしちゃっていいのかなぁ」


「いたっ」


 牧野が渚波の頬をつーんとつついた。


 つーんとされた頬を抑える渚波は、とってもかわいい。


「彼氏いる方が面白いよ」


「またノロケ~?」


「たくさん聞かせて『私も彼氏欲しいな!』って思わせようとしてんの」


「余計なお世話ですぅ~」


 渚波は友人達と笑い合った。


 渚波って好きな人いないのか。


 そーいえば、渚波の浮ついた話とか聞かないしな〜。同学年のパパラッチですら、未だ男と2人で歩いたっていう写真すら撮れていないからな。


 そんな会話を微笑ましく見ていると、長身の男子達が渚波に近づく。


「なんか澪達、面白い話をしてんじゃん」


 苅部かりべ拓斗たくと率いる、高身長イケメン3人組だった。

 

 勉強はそこそこだが、とにかくスポーツが出来てクラスで発言力がある。


 3人の中でもリーダー的存在である苅部は特にかっこいい。


 バスケ部のレギュラーでエース。


 顔の小ささも身長もモデル並み。


 加えて超かっこいい低音ボイスとなれば、モテないわけがない。


「面白い話なんかしてないから」


「いやいや、彼氏がどうのこうのって。あ、もしかして昨日の佐藤くんの告白オッケーしたの?」


 ミスコン1位の名前を軽々しく呼ぶ。


 だが、苛立つ気すら起きないほど自然だった。これがリア充か。


「苅部も知ってるの?」


 驚く渚波に、苅部が少々おどけた口調で答えた。


「佐藤くん、俺らにも言ってたから」


「マジかー」


 渚波の隣が驚くほど似合っている。


 というか、グループ同士がめちゃくちゃ似合っている。放課後、ラウンドワンでボウリングしてそう。


 俺とは住む世界が違うよなぁ……。


 現実から目をそむけたくなった俺は、渚波達から目を反対側へ向けた。


 すると、目がめっちゃ綺麗な女子と目が合った。


「………キモ、何見てんの?」


 ………目綺麗なこの女子は、宇佐美うさみ七緒ななお


 全体的に細い。そして顔がめっちゃ可愛い。


「キモは言い過ぎじゃね?」


「ガチでキモい。こっち見ないで」


 ただ、容姿の良さを台無しにするほど口が悪い。性格も悪い。


 それでも苅部達と関われたり、クラスの中でも発言力があるのは、可愛いからだろう。


 可愛いは正義だった。


 下手に関わると言葉のナイフで斬られるから、適当に相槌を返して済ませた。


 そして再び渚波達に目を向けた。


 ご飯を食べながら、苅部達と仲良く談笑している。


 当然、宇佐美も友達と楽しく飯を食べている。


 一方、俺はで古文単語を開いているだけ。


 目が合っただけでキモいと言われる。


 小説もうまくいってない。


 この差はなんだろう。


 打ち切っちゃおうかな。


 どうせ書籍化にはならないだろうし……。


 ――――パタン。


 俺は単語帳を閉じ、スマホでカクヨムを開きつつ、アイディアノートを机の上に開いた。


 馬鹿か、俺は。


 たった4PVだが、それでも見てくれている人がいる。


 読者の中でも、”ミヲすけ”さんという人だけは、毎話♡をくれる。


 この小説を投稿し始めた頃から今日までずっも応援してくれている。


 ミヲすけさんをはじめ、読者を裏切るのか? 


 見ず知らずの高校生が書いた素人小説を、大切な時間を割いて読んでくれているファンを。


 俺はボールペンを持ち、左手にスマホを握ってノートにペン先を落とす。

 

 せめてミヲすけさんが応援している限り、俺は書き続ける。


 やるぞ。


 俺はノートにペンを走らせた。


 気合十分—―――――だったが、2日分の睡魔は手強く、俺のやる気の炎を、いとも簡単に鎮火させた。


 まぶたが重い。


 眠ったらダメ男だぞ。


 叱咤しったも虚しく、全てをやりっぱなしのまま、俺は目を瞑ってノートの上に伏した。


 やっぱり人間、睡眠が大事だ。


「――――――っ!」


 息を呑む声が聞こえたが、そんなことはすぐに忘れた。


 ♦︎♦︎♦︎

 

「あの…………あの…………」


 なんか、可愛い声が聞こえる。


 俺の肩がゆっくり揺れている。


「あの………ふっ、藤木くん……」


 ――――なんだ?


 名前を呼ばれて、反射的に目を開ける。

 

 渚波澪が、俺の方に顔を向けながら、俺の顔を見たり見なかったりしている。


「あの…………もうすぐ、じゅっ、授業が始まりますよ」




「……………………え?」

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