Chapter 5-7

 まあつまり、要は全部、この人の考えた自作自演だったと言う事だ。

 何も知らずに巻き込まれたのは、僕と三峰、宇佐美先輩の三人だけである。

 ちなみにこのお化け屋敷、父さんの母――つまり僕の祖母の実家だったそうで、今はウチが管理しているのだとか。


「で? 僕を驚かせる為だけに? 一般の方を巻き込んで? いい大人が子供をさんざん引っ掻き回して何を考えているんですかねぇ?」


 僕の前には、父さんを筆頭に茅さんや今回誘拐犯役をやっていた父さんのSPやヘリのパイロットといった面々が正座で頭を下げていた。思わずブチ切れた僕が「正座ァ!」と叫んだらこうなった。そんなに怖かったのだろうか。ちょっとショックである。


「い、いやぁ、あのね……。最初に誘拐しようと思ったのは真綾君だった訳だよ、うん。事情を説明してね、一緒にやってもらおうと思っていたんだよ、うん。でもなかなか連絡が取れなくてね、そしたら慎之介が女の子と会ってるって聞いたんだよ、うん。それで面白そうだなって――ち、ちが、違うんだよ、協力してもらおうと思ったんだよ、うん」


 必死で弁解しようとする父さんが、面白そうとか言い始めたので思わず頬が引きつった。それを見た父さんは慌てて取り繕う。


「まあ、その辺にしておいてやれ、慎之介。宇佐美先輩も許してくれるそうだし」

「……気にしてない。むしろちょっと楽しかった?」


 いや、それを僕に訊かれても。

 三峰と宇佐美先輩がそんな調子だったので、僕の溜飲もだんだん下がって来た。

 何度も謝らせたし、もういいか。


「分かったよ、父さん」


 でも。僕は一応ダメ押しで、父さんにぐいっと顔を突き合わせる。


「次は普通に帰って来るんだよ?」


 父さんはもの凄い勢いで何度も頷いてくれた。まあ、この人が本当に分かってくれたかは定かではないけれど。


「はい、じゃあ撤収!」


 僕の掛け声で、大人たちは散り散りになって邸内から逃げるように出て行く。

 僕は溜め息を吐きながらそれを見送り、宇佐美先輩に頭を下げる。


「本当に済みませんでした、宇佐美先輩。家の者が迷惑ばかりお掛けしたのに、許してもらって」

「……ううん、いいの。それより……」


 宇佐美先輩は言葉を切る。だからと言って何の事か分からないほど僕は鈍くない。


「ごめんなさい。好きだって言ってもらえた事は嬉しいです。でも――」


 僕は顔を上げた。


「僕の隣を歩く人は、もう決まっているので」

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