Chapter 4-9
あなたは、人生で初めて女子とアドレスを交換してもらった時、どう感じただろうか。きっとあなたの感性が僕に似通っているのなら、とてつもない全能感を感じた筈である。
行ける。なんでもできるぞ。
僕は今、そんな感覚に打ち震えながら帰宅していた。ふはははは。ちなみに『でらっくす小倉くりーむパフェ』は「食べないならもらうぞ」という歩たちにあげた。この気前の良さ、今だけだぞっ。
そんなこんなで帰宅した僕は、茅さんに問う。
「茅さん、夕食の準備はまだかい?」
「まだですが、お急ぎですか?」
「いや、まだなら好都合だよ。今日の夕食は僕がつく――」
「却下します」
「僕が――」
「却下です」
「………………」
「却下しま――」
「何も言ってないよ!?」
厨房の番人の壁は厚かった。くそう。
「慎之介様と旦那様は絶対に厨房に通すなと仰せつかっております。申し訳ございません」
「大丈夫、分かってるよ。ははは……」
大きく頭を下げる茅さんに、僕は空元気で笑い掛け、自室へ戻った。
ベッドにダイブし、枕を涙で濡らしながら誓う。
絶対上手くなって、見返してやるんだから! 幼かったあの日、父と共に厨房を締め出された事を僕は忘れない。もう忘れない。
誓いを新たにしつつ、スマホを取り出す。明日は料理研の部活がある筈だ。アドレスも交換したし、「また明日もよろしくお願いします」くらいは言っておいた方がいいだろう。
僕は文面を打とうとして、固まった。
……いいのか? 送っちゃっていいのか?
人生初、三峰と一之瀬君以外の女生徒へのメールである。意識すると途端に僕の身体を緊張が包んだ。
……いや、ただ社交辞令を送るだけじゃないか。何を緊張して――。
と、ここで突然バイブ音が鳴る。
「うおぅ!?」
慌てた僕は思わずスマホを落としそうになる。両手とスマホが何度も交錯し、なんとかキャッチして僕はホッと息を吐く。
さて、どうやらメールが来たようだけれど、肝心の中身は……。
『こんにちは。バイトが終わったら会いにいってもいいですか?』
という、宇佐美先輩からのメールだった。
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