Chapter 4-10

 もうすぐ梅雨入りという季節、かなりじめじめし始めているが、時折肌寒い夜もある。

 丁度今日がそんな日で、じめっとしていないのは有り難いが上着がなければ外を歩くのはツラい。

 この気温差は確実に人間としての機能に影響を及ぼすな……。などと至極真面目に考えつつ、僕はメールで決めた待ち合わせの場所に向かっていた。

 出て来る時に、やたらと茅さんに心配されたが、ちょっと友達に会いに行く用事ができただけだ。大丈夫だと説得して、送り迎えをしようとする茅さんを止めた。

 そう言えば、こんな時間に一人で外を出歩くのはいつ以来だろう。普段は歩や一之瀬君、それに三峰と一緒にいる時間しか外には出ない。トレーニングは朝やるので、夜は大概家の中にいる。外に出る用事は家の用事なので、それ以外の時間は勉強に充てているのだ。


 にしても寒いな。制服の上着を着て来たけど、それでもまだ寒いように感じる。宇佐美先輩は大丈夫だろうか。ちなみに、我が陽乃坂高校の制服はブレザーである。


 そろそろ待ち合わせの場所に着く。先輩から提案があったのは、学校近くの公園だった。結構広い公園で、中央辺りには噴水が設置されている。

 僕が到着すると、宇佐美先輩はその噴水の前で待っていた。


「……こんばんは」

「こんばんは、先輩。アルバイトお疲れ様です」

「……ううん、来てくれてありがとう」


 宇佐美先輩と挨拶を交わし、僕らは噴水の縁に腰掛ける。


「それにしてもびっくりしましたよ。先輩、天露屋でアルバイトをしてたんですね」

「……うん。だから、冴木君たちの事も実は見た事あったの」

「そうですよね。全然気付いてなくて済みませんでした」

「……そんな事ない。私が勝手に見ていただけだから」


 宇佐美先輩は、僕の目を見て続ける。


「……見てた。ずっと、あなたの事。あなたはいつもキラキラ輝いていて、すごく眩しい。ずっと憧れてた」

「それ、って」


 空気が変わった気がした。

 表情の少ない宇佐美先輩が、とてつもなく真剣な顔つきになったような。


「……私、冴木君の事が好き。付き合って欲しい」

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