Chapter 4-4

「それで?」

「……いや、それでって。何の話だい?」

「決まっているだろう。君は宇佐美先輩とそういう仲になったのか?」


 そういう仲。

 連れて来られた校舎裏で、三峰と二人きりになる。わざわざこの状況を作って話しているのだから、そう問われて何の話か分からないのは歩と一之瀬君みたいな人間だけだ。

 だがそれでも、校舎の壁に寄り掛かって腕を組んでいる三峰を前に、地べたに座り込んだ僕は曖昧な答えしか返せなかった。


「いや、どうなんだろう……?」

「はっきりしたまえ。私たちはこれでも一応、許嫁なんだ。だからその……。君が彼女を選ぶと言うなら、互いの両親に報告したりだとか、色々あるだろう」


 確かに、それはそうだ。今まで僕は自分が歩より、とか、許嫁なんて親が勝手に決めた事だから、とか思ってやってきただけで、そういう事はあまり気にせずにいたけれど。

 考えてみれば当然だけれど、僕ら当事者だけの問題ではないんだ。冴木と三峰の家同士の約束だ。反故になったとなれば、両家のこれからの関係に間違いなく影響を及ぼす。

 現実主義的な三峰の言葉に、僕はどこか引っ掛かりを覚えながらも頷く。


「そうだね。でも先輩とは……」


 僕とした事が、浮かれ過ぎて冷静に考えられていなかったが、頭を冷えてくればすぐ思い至る。

 そもそも宇佐美先輩は、僕に料理を教えてくれたり、お昼を一緒にしようと来てくれただけで、そういう感情を口にしてくれた訳ではない。

 それこそ、僕が勝手に舞い上がっているだけで、先輩は単にご厚意でやってくれているに過ぎないのかもしれないのだ。


 僕は三峰の顔を見る。そっぽを向いていて表情は見えないが、さっきの引っ掛かりがなんだったのかを理解するには充分だった。

 僕はゆっくりと立ち上がり、服の汚れを払う。全く、僕の服をこんなに汚してしまうとは、罪深い女性だよ、君は。


「別にそういうのじゃあないさ。行こうか。皆僕の帰還を首を長くして待っているだろうからね!」


 髪を掻き上げる僕に、三峰はしばし目を点にした後、苦笑交じりに息を吐く。


「さて、それはどうだかな」


 僕、冴木慎之介は許嫁の事が嫌いだ。




 でも――。

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