Chapter 4-3

 中庭を出て校庭を走る最中、僕はそういえば昔、一度だけ同じような事があったなぁと思い出す。

 あれはそう。小学三年生の時だ。同じクラスの女の子から告白されて、僕はあまりに舞い上がってしまい、学校中を駆けずり回った。残念ながら、それから程なくしてあの子は転校してしまったので殆ど付き合う事すらできなかったのだけれど。


 一応、あの子が僕の初めてにして唯一の彼女だったという事になるだろうか。名前は確か、織座おりざ君と言ったか。


 それ以降長らく存在しなかった僕のモテ期という奴が、今まさに再来しているのだ。これで走らないでどうすると言うのか。僕よ、今が駆け抜ける時!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 砂煙を上げるかのような勢いで爆走する僕を、通り掛かった人たちがなんだなんだと見返して来る。だがそんな視線を気にも留めずに、僕は校庭を一周して中庭に戻って行った。


「取り敢えずうるさい」

「ぬふぉおおぉぉおおおおぉぉぉおお!?」


 中庭に戻って来た時、三峰に足を引っ掛けられて、僕は盛大にすっころんだ。ごろごろと芝の上を転がって止まる。


「な、何するんだ三峰! 危ないじゃ――」

「気は済んだか、慎之介。何、そろそろ落ち着かせてやらねばなと思ってな」


 顔を上げれば、そこには薄緑色の逆三角形があった。


「……うん? どうした?」

「いや、その。見えているよ?」


 視線を外して黙り込んだ僕を不審に思ってか、三峰が問うて来る。仕方ないので僕は見えているのを指摘してあげたのだが、


「な、な、何を見ているんだ馬鹿者! 変態! えっち!!」

「この間着替えを見せてやろうかとか言ってた人の台詞ですかね、それ!?」


 顔を真っ赤にした三峰に足でげしげしされる。いや、それで余計に見えちゃいますからね!?


「ううううるさい! 宇佐美先輩、彼にはこれから教育的指導を行いますので連れて行きますが、構いませんね!!」

「……行ってらっしゃい?」


 小首を傾げながら手を振る宇佐美先輩を前に、僕は三峰に首根っこを掴まれ、校舎裏へと強制連行されるのであった。

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