Chapter 4-2

 昨日、宇佐美先輩が僕に料理を教えてあげると言ってくれてから。

 歩たちには先に帰ってもらい、僕は宇佐美先輩に料理を習った。まずはもう一度、簡単な野菜炒めを作ろうという事になり、僕の隣に寄り添うような形で、宇佐美先輩が一から作り方を教えてくれた。

 宇佐美先輩が手取り足取り教えてくれたお陰で、なんとか見た目も味も普通のものができた。


「……うん、普通に美味しい。流石」

「あ、ありがとうございます」


 なんだかもう、僕は恐縮しきりでいつもの調子が出なかった。

 なにより僕ともあろう人間が、改善中とはいえ「普通」の物を作って、しかもそれに満足しかけているとは……!


「……それじゃあ、また明日」

「は、はい。よろしくお願いします」


 部活が終わり、宇佐美先輩と挨拶を交わして、僕は一人で帰路に就いた。正直、どうやって帰ったか覚えていない。帰ってからは茅さんから熱でもあるんじゃないかと心配された事だけは覚えている。


 眠りに就く前、僕はふと悟った。

 僕は、天使に出会ったんだ。


「……お弁当、作ってもらってるの?」

「え、ええ。家に腕のいいメイドさんがいまして……。茅さんって言うんですけど、保険医の茅先生のお姉さんなんです」


 そんなこんなでこの昼休み、突然の天使の来訪に、僕は一之瀬君と話している時の歩みたいにしどろもどろだ。


「……へぇ。一口貰ってもいい?」

「ど、どうぞどうぞ! いっぱいありますから!」


 僕の弁当に興味を示した宇佐美先輩に、僕は弁当箱を差し出した。その中から、宇佐美先輩はきんぴらごぼうを取っていく。


「……凄い。こんなに美味しいきんぴらは初めてかも」

「本当ですか? よかった……」


 お口に合ったようでなによりである。この人に茅さんを褒めて貰えたのが、自分の事のように嬉しい。

 感極まって来て、僕は思わず立ち上がる。


「ちょっと走ってきます!」

「……え?」


 首を傾げる宇佐美先輩を置いて、僕は走り出した。


「………………シンが壊れた」


 と、歩が呆然と呟いたのが聞こえたが、全く気にせず、僕は中庭を走り去った。

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