Chapter 2-7

 勉強会を終えて、皆が帰った後。リビングで息を吐きながら、茅さんと二人きりになったこのチャンスを逃すまいと、意を決して問い質す。


「それで、茅さん。さっきのは一体なんだったんだい?」

「さっきの、とは?」

「いやいや、いきなり脱ぎ始めたじゃないか」


 あれが原因でしっちゃかめっちゃかあったんですよ? この湿布の数、ご覧になりますか?


「ああ……。もう一度やりましょうか?」


 と、茅さんは服に手を掛ける。だからそういう事じゃなくて!

 この作品はそういう要素の全くない「THE健全」な作品なんですから! ただでさえあなたの登場で登場人物の平均年齢が上がってるんですから、そういうのはなしでお願いします!

 ……まあそれは冗談として置いておいて、だ。


「そうじゃなくてね、なんでそういう事をしたのかって訊いてるんだよ」

「はあ。それなら先程申し上げた通りですが。慎之介様が真綾様との婚約を破棄なさるおつもりなら、わたくしがその席を狙わせて頂きます。両親からは隙あらば玉の輿を狙って来いと言い付けられておりますし、見た所、慎之介様には真綾様以外の選択肢はないようですので、わたくしがなるしかないかと」

「ぐほっ!?」


 ぐさっときたよ今のは! ぐさっと!

 父さん、母さん、何故この人を雇ったんだい……? ああ、茅さんのご両親が知り合いなんだよね、知ってた。

 物理的に痛む訳ではないけど、僕は茅さんの言葉に胸を押さえて蹲る。


「……お言葉ですが、いい加減素直になられてはいかがですか?」

「へ?」


 僕は顔を上げて問い返す。けれど、茅さんはそんな僕を気にも留めないように、


「わたくしはご夕食の準備がありますので、失礼致します」


 と、僕を置いてリビングから出て行った。

 一人になって、ぽつんと取り残された僕は茅さんの言葉を思い返す。


 素直に、か。


「……分かってはいるつもりだけど、なぁ」

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