Chapter 2-6

「大丈夫、冴木君?」

「お気遣い痛み入るよ、一之瀬君」


 結局、僕の体力が限界を迎えた所で三峰に捕まった。僕でも逃げ切れないこいつは一体なんなんだ……。


 という訳でこてんぱんにやられてリビングに帰って来た僕を、一之瀬君が手当してくれる。茅さんが用意してくれていた湿布を、三峰にやられた所に貼ってくれる。っていうかやたら準備がいいこの人が元凶なんですけど!


 ありがたいけれど、「一之瀬さんといちゃいちゃしやがって」という怨念みたいなオーラが痛いのであとは自分でやりますありがとうございました。そう言えば君は一之瀬君が僕の事を好きだと思い込んでいるんでしたね。


「赤西、集中したまえ」

「っと、ごめんごめん」


 そんな歩は、三峰と勉強会の続きをしている。長テーブルの真ん中辺りを使って、彼らは向かい合わせに座っていた。歩が三峰の事を好きだと勘違いしている所の一之瀬君はといえば、気になる様子は見せているものの僕に気遣ってくれる。見てくれ歩、これが天使だ。


 と、それを伝えるような視線を歩に向けると、「そんな事分かってるから早く離れろこのやろー」みたいな眼差しを返された。はいはい、分かってますよ。


「さて、それじゃあ一之瀬君も勉強会の続きをしようか……っとと」

「大丈夫? もう、真綾は手加減とかしないんだからー」


 立ち上がろうとしてたたらを踏んだ僕の身体を、一之瀬君が支えてくれる。ああっ、ありがたいけど視線が痛い!


 一之瀬君は三峰を叱ってくれるが、彼女は「ふんっ」と頬を膨らませてそっぽを向くだけだった。


 ……正直、かなり加減はしてくれていると思う。彼女はなんとか道だのなんとか拳法だのなんとかアーツだのを極めていると聞いた事があるので、本気だったら僕は今頃覚めない眠りの中だろう。ソースはウチの両親なので真偽は定かではないけれど、僕を超える運動能力はそれで説明が付くような気がしなくもない。


 一之瀬君に支えてもらいながら、僕も席に着く。なんとなく三峰とは距離を取った位置に座るが、あちらは気にした様子もなく歩に勉強を教えている。


 ってなんでこんなに彼女の事を気にしなきゃいけないんだ。


「一之瀬君の続きはどこからだったかな?」

「えっとね……」


 一之瀬君に英語を教えながら、僕はちらっと、部屋の隅で直立で待機している茅さんを一瞥した。


 ……相変わらずの無表情で、何考えてるのかさっぱり分かりません。ぐすん。

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