Chapter 2-5

「あ、あのー、茅さん? それはどういう……」

「慎之介様は真綾様とは婚姻なさらないおつもりなのでしょう? それならわたくしにもチャンスはあるのではないかと」


 それは、言葉の意味だけ考えれば僕の事が好きだと言う事になると思うんだけど。

 ……どう見てもそういう感じではないんだけどなぁ。全く顔色変えずに服脱いでいってるし。


「っていうかなんで脱いでるの?」

「先程、我々使用人の着替えが見たいとおっしゃっておりましたので」


 いやいや、そうじゃなくてですね。僕は別に着替えが見たい訳ではいや見れるなら見たいけどいやだからそうは言ってないじゃないですか。


「……年上はお嫌いですか?」

「い、いや、そうは言ってないんだけどね。取り敢えず脱ぐのやめようかやめましょうやめてくださいお願いします」

「慎之介? ここにいるのか?」


 と。

 ドアが開いて三峰が入って来たのはその時だった。


「……慎之介? 何をしているんだ、お前は?」

「……。ちっ」


 今この人、すっごい棒読みで「ちっ」って言った! 舌打ちじゃなくて「ちっ」って言った! 雇い主の前で!

 っていやいや、それよりも。


「いや、あの、だね。これは茅さんが勝手に……!」

「ほう……。君は女性に不埒な真似を働いておいて、その罪を相手に押し付けるような男だったのだな。茅さんは早く逃げたまえ。この女性の敵は私が成敗しておこう」

「ありがとうございます。失礼致します」


 え、ちょっと! 流れに乗っかって退散しちゃったよあのメイドさん!

 茅さんが部屋から出て行き、三峰は改めて僕の前に立ちはだかる。


「さて、慎之介。覚悟はできているな?」

「できてないできてない! ちょっと、話を……ッ!? あ、痛い! この間君にやられたばっかりの所が痛くなってきた!」

「それが辞世の句という事でいいな」

「だから話を――っと!?」


 三峰の放った渾身のストレートをギリギリで回避して、僕は部屋の外に飛び出した。

 そして廊下を猛ダッシュで爆走する。慎之介よ、今が駆け抜ける時!

 だがその後を、三峰真綾と言う名の殺人マッシーンが猛追して来る。誰か助けて。


「待て! この浮気者!」

「誰が誰に浮気したって言うんだ!」


 っていうかなんでこんな事になってるんだ。こういうラブコメ的な展開はいつも歩の役割だろう!?


「今度は赤西に責任転嫁か!?」

「勝手に人の心読まないでくれるかな!?」

「顔にそう書いてあるわ!」

「どうやってその位置から顔が見えるんだい!?」

「なら背中が語っている!」


 「なら」ってなんだ「なら」って!

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