Chapter 1-11
この人、今なんとおっしゃいました?
君がモテない理由を教えてやろうか?
「本当に余計なお世話だよ! っていうか、それを言うなら君の方こそどうなんだい?」
「私か? 私はまあ、色恋沙汰には特に興味がないからな。それに、見てくれがこうでも中身はしょうもない自覚はある。……と言うより、見てくれだけで寄ってくる輩は老若男女問わず大嫌いだが」
「……君がモテない理由はよく分かったよ」
はあ、と僕は溜め息を吐く。なんだか肩の力が抜けていく。
「それじゃあご教授願おうかな。でも、僕は決してモテない訳じゃない。常に歩が僕の先を行っているだけさ。それを勘違いしないで欲しいね! で、それを踏まえて、どうしたら僕が歩の先を行けるかが聞きたいね」
「……そういう所がなぁ」
「ん? なんだい?」
「いや、そういう事ならそうだな……。君は顔に自信があるようだから、もっと押して行ってもいいんじゃないか?」
「へぇ。例えば?」
「ふむ。ならちょっと試してみようか」
「へ?」
どん、と三峰に押されて、僕の身体が後ろに倒れる。
その上に三峰が馬乗りになる。三峰の顔がいつもより近くにある。こんなに近距離で顔を突き合わせるのは初めてかもしれない。
「あの、三峰、さん?」
「どうだ? 少しはどきっとしただろう?」
ふっ、と微笑んで、三峰は僕から離れる。
「それは、まあ……」
「なら今度は君がやってみろ。なに、ただの練習だよ」
と、三峰は僕に同じ事をやるように促してくる。
って、押して行くってこういう事? こんな物理的に、って言うかこんなの無理矢理襲い掛かってるみたいで
「紳士的じゃあ――」
「そういうのはいいから」
「うぉい!?」
自ら倒れ込む三峰に引っ張られ、僕は彼女の上に馬乗りになる。
そのまま数秒間見つめ合う。
すると三峰は、何故か顔を赤らめて視線を逸らした。いや、あの、自分からやったくせに。
分かってるよ。顔はいいんだ。でも中身が男らし過ぎてって言うのもあって、あんまり女性として見て来なかったけれど。
三峰が目を瞑る。顎が上向く。自然と顔の距離が近付いていく。
許嫁、なんだよな。
「おーい、三峰さん、シンはそろそろ起き――お邪魔しましたー」
「待てええええええええええ歩うううううう誤解だあああああああああああ!!」
華麗なUターンで元来た道を爆走する歩を、僕は全速力で追いかける。
顔が蒸発しそうなくらいに熱いのは気温のせいだね、きっと!
「ふぅ、なんとか撒けたか」
「それはどうかな!」
「うぉい!?」
昇降口の前まで走って来ると、後ろを振り返り、安堵の息を吐く歩。
だが先回りしていた僕は、昇降口の中から飛び出して歩の肩を掴む。
「いいかい、よく聞くんだぞ歩。僕たちはそういう関係じゃあないんだ。大体、彼女のような男勝りでガサツで考えるより先に手がでるような女性が、僕のような品行方正で成績優秀な男性と釣り合う訳――ん、どうしたんだい、歩」
歩が妙に血の気の引いたような顔をするので、訊ねると彼は僕の後ろの方を指差す。
「シン! 後ろ、後ろ!」
「へ?」
「それは申し訳なかった。私も君のような顔だけの男は願い下げだ」
般若がいました。
「安心しろ。ご自慢の顔は避けておいてやる」
このあと滅茶苦茶ボコされた。
……うん、一瞬でもかわいいと思った僕が馬鹿だった。
やはり僕、冴木慎之介は許嫁の事が嫌いだ。
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