Chapter 1-10

 柔らかい。でも、それなりに硬さもあって、心地いい。

 なんだろう、これは。膝、かな。膝枕。それも女性の。

 誰の膝だろう。一之瀬君。それとも笠原君?


「おはよう、慎之介。気分はどうだ?」

「おはようございます三峰真綾さん。お陰様で僕は元気です」


 僕は目を覚ますとスッと身体を起こして深く頭を下げる。

 周りを見回すと、どうやらここは体育館裏のようだった。建物の陰に入っていて涼し気だ。


「赤西の投げたボールがいい所に入ったようでな。気を失っていたのさ」

「ああ、あれか……。君が介抱してくれるとはね」

「私以外に誰がいるんだい?」

「………………………………………………………………。それで、勝負は?」


 いかん、僕とした事が数秒間現実逃避してしまった。


「笠原さんが降参したよ。正攻法で抜かれた上に、ファールまでしてしまったからな。赤西はあまり納得いっていないようだが」


 と、三峰は困ったように笑う。まあ、でも妥当な所だ。1on1はその形式上、抜かれたら一本入れられたようなものである。一応、歩はフリースローを撃つ権利があるけど、成功率を考えればあまりやる意味はないだろう。……もちろん低過ぎるという意味でだけど。


「成程。ま、僕のアドバイスのお陰だね! これだけ輝く存在でありながら、さり気なく親友のサポートができる男を放っておく女子なんていないだろうからね! 勝負に負けて悔しがっているだろう笠原君を癒しに行けば、彼女の心は僕のものだね!」

「あー……。それなんだが」

「え?」

「あれから赤西はもう、勝負どころじゃなくなってな。笠原さんの身体を気遣う方に振り切れてしまって」


 なんだか面白くない流れになってるぞ、これ。

 うん。僕これよく知ってるー。


「なんと言うか、そうしている内に、笠原さんが赤西を見る視線の色が変わっていったというかつまり、あれだ」


 ぽん、と三峰は僕の肩を叩いた。


「赤西に惚れてしまったっ。てへっ」


 てへっ、じゃない。

 照れ隠しか何か、三峰はわざとらしい咳払いをしつつ、続ける。


「まあ、なんだ。君が言う所の余計なお世話かもしれないが」


 この全くかわいげのない許嫁が、何を言おうとしているか、僕はこの時点でなんとなく察してしまった。


「君がモテない理由を教えてやろうか?」

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