昨日見た夢・つれづれ短編集

ましさかはぶ子

75 羽を持つもの




私は産まれた時から他のものと姿が違っていた。


一番違うのは私には羽があった。


透明で艶やかな羽。

陽にかざすときらきらと光った。


「いいわねぇ、あなた。」


私と同じ頃に生まれた彼女は言った。


「あなたみたいに羽が欲しかったわ。」


私はふっと笑う。


「でもなかなか不便だよ。

風が吹くとしっかりと捕まっていないと危ないし。」


だが私の心の中ではみなと違う姿が自慢だった。


私は特別なのだ。

この土地に縛られる事はない。

いずれ旅立つのだ。


彼女らはここから離れられず、

ずっと子育てをする宿命だ。


私は違う。

新しい場所に行って違う生活を始めるのだ。


その時私達がいる場所が揺れた。

その動きは激しい。

風が吹く。


私はそれに乗るよう手を離した。


「行く。」


ふわりと私の体が浮く。

元にいた場所にいる仲間が手を振った。


旅立ちだ。


そして少し私は飛ぶと柔らかい場所にぶつかった。

私はそれにしがみついた。


「あ、羽のあるアブラムシ。」


私は何か大きなものに払われた。

その途端柔らかい体が歪み潰れた。


「羽のあるのが生まれる時期だ。」

「そうね、駆除しなきゃ。」

「あー、茎に一杯アブラムシがいるな。

あの虫はすぐ増えるからな。家庭菜園では困った虫だ。」

「自然の生き物だからやたらと駆除したくはないけどね。」

「じゃあ、牛乳入りの水をかけてくれ。」

「分かった。あら、ぽろぽろ落ちて来る。」

「落ちたのにもかけてくれよ。」

「了解。」




アブラムシは住んでいる環境が悪くなったり、

季節が変わる時に羽があるものが生まれる。

それは別の場所に飛んで行って子を産む。


人にとっては害虫だが、

それは彼らが手に入れた繁殖のやり方だ。

彼らが絶滅すれば地球の生き物のバランスは

確実に崩れるだろう。

地球に住む生き物にとっては大事な生物だ。


そして羽を持つものとして定められた運命から

逃れる事は出来ない。

自分の意志で好きな所には行けない。

ただ風に乗るだけだ。


先の分からない旅に否応でも行かされる。

それは定めなのだ。




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