74 熱的死する宇宙 - SF -





その宇宙は宇宙としての寿命を迎えた。


生命を持つ生物はとうの昔に消えた。

そしてあまたに輝く熱を発するはずの恒星はもう無い。

それらが存在した空間すらないのだ。


そこには完全に何もなく

空間と言う概念すらそこにはない。


全て死んでいるのだ。




「あ、ヤバい、お湯が冷えちゃったよ。」


煮卵を作ろうとしてお湯を沸かしていたが

用事が出来ていったんガスを切ったのだ。


「熱湯に冷蔵庫から出したばかりの卵を入れて、

6分半茹でるから……、」


常温に戻った卵を冷蔵庫に戻した。

煮卵に使う漬け汁はもう作ってある。

これはもう粗熱は取れていた。


私は鍋を見た。


再び湧き出した鍋の底には無数の泡が付いている。

それは水分中の空気が現れたものだ。


「宇宙の構造って泡構造なんだよな。」


私は箸でその泡をつついてみると

ふっと鍋底から水面まで浮き上がる。


「この一つ一つが宇宙だったりして。」


私は卵を冷蔵庫から取り出した。

そろそろお湯が沸くからだ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る