73 令和6年8月9日 - ニチジョウ -
娘が里帰りをした。
子どもを産んだからだ。
二人目だから落ち着いているが、
それでも夜中に何度も赤子に起こされて大変なようだ。
私も出産経験があるがそれからずいぶん時間が経っている。
彼女の様子を見ながら何となくその時を思い出し、
辛かったなあと改めて感じていた。
そして一月ほどして帰る事になり、その数日前に彼女と話をした。
その頃にはある程度体も楽になったようで、
赤ん坊も少しずつ長く眠れるようになっていた。
雑談をしながらいつの間にか彼女の仕事の話になった。
娘は働いている。
なので一年間産休を取る。
一人目の時も一年産休を貰った。
私の頃は良くて三ヶ月だ。
結婚しても働く人はいたが妊娠すると大抵退職勧告される。
そして夫が産休など取れる訳がない。
昔は核家族の出産したほとんどの女性は
今で言うワンオペで子どもを育てた。
それが当たり前の時代だったから我慢して育児をしていたが、
自分の命を削っている感覚は確かにあった。
私はいまだに睡眠障害が治らない。
だが現代は職場によっては夫も育休が取れる。
時代は変わったなあと私は思った。
良い方向に変わっているのはありがたい話だ。
「これが私が企画して作ったものだよ。」
雑談をしながら彼女は仕事で作ったものの
写真をスマホで見せてくれた。
そこには綺麗な色の製品があった。
それに付けるポップなども仲間と一緒に作ったらしい。
「凄いねえ、格好良いじゃない。」
「これはクリスマスに作ったもので、こちらは七夕で……、」
イベント毎に何かを作るのだろう。
「考えるのは大変だけどね。」
と彼女は微笑みながら言った。
「大変だろうけどちゃんと形になっているし、
評判よかったんじゃない?」
と私が言うと彼女は嬉しそうに笑った。
そして彼女は言う。
「今度もお母さんにはお世話になったから
こっちも親孝行しないとね。」
今度はこちらがふふと笑った。
「そんなの良いよ、気にしてないし。」
「でも……、」
「親に見せられる立派な仕事をして、
結婚して夫婦仲も良くて子どもも産んでそれで充分親孝行だよ。」
「そうなの?」
「形はなんであれ、
親を安心させることが親孝行だと思うよ。
あんたはちゃんと自分で考えて生きているってことが分かった。」
私は再び彼女のスマホを見た。
「それで良いんだよ。」
それを言うと彼女ははっとした顔をして言った。
「お母さん、格好良い。」
「そうか?長く生きているから亀の甲より年の功だよ。」
「えー、年寄りくさーい。」
と娘はははと笑った。
そして私も笑う。
そして娘は子どもを連れて家に戻った。
まるで嵐のような一ヶ月が終わった。
「慣れた頃に帰るんだよなあ。」
と今年の夏は本当に暑かったなあと
私は窓を開けた。
少しばかり秋らしい雲が空に浮いていた。
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