71 双子のエンタングルメント - SF -




突然嫌な予感がした。

背筋が凍りつく感覚だ。


自宅で仕事をしていた私はいきなりそうなった。

特別な事はしていない。

それを急に感じる理由が全く分らない。

私は窓から外を見た。


いくつも流線型の美しいビルが建ち、

その間を車が浮き上がり走っていく。

すべて自動運転だ。

街中はいつもと一緒だ。


私は目の前のモニターを見た。

空中に浮いているが実際はそこになく、

私の網膜に写されて見えている。


「脈拍数が上がっているわ。」


私は呟いた。

興奮状態にあるのだ。


「どうしたのかしら。」


だが私はふと妹の事を思い出した。


今は12光年先の惑星へ調査に行っている。

ワープを何度も繰り返しその星に向かっている最中だ。


それを思いついた途端、

私はいたたまれない程の不安を感じた。

慌てて妹が所属している宇宙局に向かった。


案の定、宇宙局のその計画チームのラボは大騒ぎになっていた。

そのスタッフが私を見て驚いた。


「まだ連絡していないのに、どうして。」

「急に不安になったんです。何かあったのね。」


するとスタッフがため息をついた。


「宇宙船が行方不明になったのです。

目的地のすぐ近くなので墜落したのかもしれません。」

「そんな……、」


私の不安は的中していたのだ。


「でもその状況が分かったのはさっきです。

あなたはなぜ……。」

「私と妹は一卵性の双子です。

もしかするとそれで分かったのかもしれません。」


実は昔から私は妹と離れていても

なぜか相手がどうなっているのか分る事があった。


特に病気や怪我の時だ。

痛くもないのに足が急に痛み出した時は

妹は足を打っていた。

私が刃物で指を怪我した時も妹は指が痛くなったらしい。


「通信でもここまで届くのに時間がかかります。

なのにあなた達は瞬時に分かったのですね。」


科学的な根拠は全くない。

だが実際私はここに来た。

しかし、これからどうすればいいのか。

さっぱり分からなかった。


「救助隊は今すぐに発進します。

ですが目的地にまでは急いでも二日ほどかかります。」


スタッフは私を見た。


「不安はまた感じますか?」


私は自分の胸に手を当てて大きく息を吸った。

動悸はいまだに激しい。


「感じます。

でもこれを感じているうちは妹は生きている気がします。」


私はこの現象を記録するために

このラボにとどまる事となった。

実験体のようで少しばかり複雑だが

ここにいればすぐに妹の様子も悟れるだろう。


私はモニターベッドに寝せられて監視された。

科学では理解出来ない事が起きているからだ。


動悸は相変わらずだ。

それでもしばらくすると私はうとうととしてしまった。

すると脳裏に見たことがない景色が見えた。


天頂に恒星があり、薄緑の大地、近くに海のような水を湛えた場所が見えた。

そして真っ黒な煙が上がっている。

私は思わず飛び起きた。


『どうされました?』


モニターから声がする。

私は冷や汗を拭きながら言った。


「空に太陽の様な星が見えたわ。

緑の草原と海なのかしら、

湖のようなものが近くに見えて黒い煙が出ていた……。」


しばらくモニターから返事がない。


『分かりました。しばらくお待ちください。』


するとモニターベッドのシェルターが開く。

スタッフが私を見た。


「もうすぐかの星に救助隊が着きます。」

「えっ、私は何日寝ていたの?」

「2日です。」


私は驚いた。

少しうとうとしただけだと思っていたのだ。


「ですが先程のあなたの話で

ロケットが墜落していた場所がすぐ分かりました。

救助隊にもその地点を指示しています。」


私はふと感じた。

急に心が楽になったのだ。

私は微笑む。


「多分今見つかったと思うわ。」


スタッフが複雑な顔になる。

他人からすれば不気味な話だろう。




妹が乗っていた宇宙船は着陸に失敗し大破していた。

乗員は全員脱出出来たが妹は重傷だった。

一時は危なかったらしい。

だからあの離れた距離でも

私は妹の状況が分かったのだろう。


しばらくして妹は帰って来た。

まだ顔色は悪かったがもう心配はないらしい。


「怖かったけどお姉ちゃんが

いつもそばにいた気がしたよ。

だから死なないと思った。」


と彼女は笑った。




これは不思議な話だ。


私がモニターされた記録では

心拍数の異常はあったがそれだけだ。

脳波も特に異常はない。

だが現象として私と妹は繋がっていたのだ。


妹はしばらくして退院した。

あれほどの経験をしながらまた宇宙へ飛び出す気らしい。


「怖くないの?」


と私は苦笑いしながら聞いた。


「怖くない。

どこでも繋がっているのが分かったから。」


妹はにっこりと笑った。

それは明るい素直な顔だった。





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