65 スイカ - ホラー -
スイカを貰った。
今年は出来が良いようで沢山採れたらしい。
朝ピンポーンとベルが鳴った。
「沢山もらっちゃったのよ。
昨日この近所にも配ったんだよ。
蔓が茶色っぽくなって模様がはっきりして来たら
食べ頃だよ。」
とおばあさんが言った。
おばあさんは頭のてっぺんに髪の毛を結っていた。
茶色い髪色で変な髪型だ。
知らない人だが近所の人らしい。
おすそ分けのおすそ分けだ。
断ろうと思ったが小ぶりのスイカで
2日ぐらいで食べ切れそうだった。
それに暑い日が続いていた。
瑞々しいスイカは見るからに美味しそうだった。
「ありがとうございます。」
「こっちこそ助かるよ、ありがとうね。」
と俺はおばあさんからスイカを受け取った。
おばあさんはにこにこしている。
なぜか良い事をした気がした。
冷蔵庫にはビールとつまみみたいなものしかない。
外食ばかりだ。
だから小さいスイカはちゃんと入った。
「今夜はスーパーで総菜でも買って、
スイカがデザートか。」
俺はにやにやしながら会社に行った。
そして帰りにスーパーに寄り総菜を買った。
終わり際だったので値引き品が沢山あり、
美味しそうなものが沢山買えた。
「明日の分もあるなあ。」
俺は家に帰ると冷蔵庫を開けた。
「えっ?」
スイカの蔓は真緑だった。
「食べごろは蔓が茶色くなった頃と言ってたな。」
頭の中はスイカでいっぱいだったが、
やはり美味しいスイカが食べたい。
今日は総菜も買えたし、
スイカは明日だと考えて買って来たものを食べた。
翌日、会社からすぐにアパートに帰った。
とりあえずアパートは満室のはずだが
どの窓にも電気がついていない。
変だなとは思ったが、
スイカが待っていると思うと早く帰りたかった。
玄関に入りすぐにキッチンに来て冷蔵庫を開けた。
「……、」
スイカの蔓はまだ緑だ。
そしてなぜか大きくなっている。
小さめのスイカのはずだが、
今は冷蔵庫の中の隙間が少なくなっている。
俺はスイカを冷蔵庫から出した。
ひんやりしている。
不思議に思い、スイカを台所に置いた。
「生き物だからな、成長したのかな?
でもまあ喰っちまうか。」
と俺は包丁を持った。
するとスイカがガタガタと動いた。
俺はぎょっとする。
『切るなら気を付けて下さい。
中にいます。』
俺は驚いて包丁を持ったまま後ろに下がった。
『あれ、あれですよ、桃太郎みたいなやつ。
いきなり真っ二つにすると死んじゃいますよ。
死んだら後味悪いでしょ?』
俺は恐る恐るスイカに近づいた。
それに耳を当てる。
『早く出して下さいよ。』
確かに中から声がした。
俺は包丁をスイカに刺した。
地球で言えば赤道部分をぐるりと切った。
皮の感触は薄かった。
中身はない感じだ。
そしてそっとスイカの北半球を持ち上げると、
そこには小さなスイカがいた。
「出して頂いてありがとうございます。」
小スイカはぺこりと頭を下げた。
「中身がない……、」
中身の実の部分は全くなくつるつるで、
内側は半透明の薄い黄緑色だった。
「すみません、食べました。」
「楽しみにしてたのに。」
「ごめんなさい。」
小スイカは申し訳なさそうに言った。
「お詫びにこのスイカの上の部分を頭に被ってみてください。」
小スイカが俺が切ったスイカの北半球を見た。
俺は何気なくそれを持ちかぶってみた。
ひんやりとした感触。
冷たくて気持ちが良い。
そして頭にぷつんと何かが刺さった。
「あなたもスイカになれますよ。
暑さはもう平気です。
それに太陽に当たればご飯も食べなくて良いですよ。
光合成できますからね。」
小スイカはぴょんぴょんと嬉しそうに跳ねた。
目の前に伸びた茶色の蔓がぶらぶらするのが見えた。
「私は全世界スイカ化計画の一員です。
ご飯が増えて嬉しいなあ。」
今は夜だ。
朝までは時間がある。
そう言えばまだ夕飯は食べてなかった。
腹が減っている。
でも小スイカは言った。
日に当たれば食べなくて良いと。
だから俺は朝になるのが待ち遠しくなった。
お前らもおばあさんがスイカを持って来たら
受け取った方が良いぞ。
もう金のために会社に行かなくていいからな。
太陽さえあれば生きていけるんだ。
ああだからアパートの電気は
どこも点いていなかったんだ。今分かった。
でもどうしてあの小スイカはスイカの中身を食べたんだ?
日に当たれば食べなくていいんだろ?
何か言っていたな、ご飯とか……。
でももうなんだかどうでもいいや。
考えるの面倒くさくなった。
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