第3話

手を挙げたのは僕だけだった。

僕は勝てると思っていた。

唯一の友人Cは僕の意見に賛成だと言っていた。

僕は友人に裏切られ、心を集団リンチされた。


「じゃあ、そういうことで。」


僕は何事も無かったように言い、席に戻った。

ヒソヒソと僕の悪口が聞こえた。


「あいつ馬鹿じゃん。おもんな。」

「帰るの遅れるとかダルいわ。」

「あいつうざ。早く死なねぇかな。」


担任が教壇に立ち、話し始める。


「非常に興味深い話し合いでした。真山の意見は結構資本主義的で、皆はどちらかというと共産主義的な考えかなと。どちらも歩み寄ることが大事だと思います。」


礼をして、実行委員が集金をする。

僕は700円を渡し、足早に教室を後にした。

背中に矢が刺さったような気がした。

見えない手が僕の首を締め付けて、呼吸が浅くなる。

駐輪場に着く頃には、息が上がりくらくらした。

窓から見られている気がして、僕は急いで自転車に乗り帰った。

玄関を開けて靴を投げ捨てるように脱ぎ、自分の部屋に駆け込んだ。

ドアにもたれ掛かり、呼吸を整える。

ドッドッという心臓と呼吸の音だけが僕の世界を支配する。

心に無数のヒビが入り、中にいる僕は耳を塞いで怯えていた。

呼吸が落ち着き、椅子に座る。

僕はどうするべきか。

しばらくは大人しくしよう。

何も言わず目立たなければ、状況が悪化することはないだろう。

両親に相談する勇気のない僕は、いつも通りの顔をして夕飯を食べた。

温かく素朴な味のうどんが、心を一時だけ癒した。

自分の部屋に入った途端悲しみと怒りが襲ってくる。

どうして僕は理解されないんだ。

正しい事を主張して何が悪い。

僕はネットの世界に理解者を求めた。

5ちゃんねるを開き、スレッドを立てる。


「イッチが正しい。」

「勉強の出来と、人間性は必ずしも一致しない。」

「社会はいつも理不尽だ。頑張れイッチ。」

「イッチ孤独やな。孤独な革命家ってどうや?」


僕はねらーから孤独な革命家と呼ばれるようになった。

ねらーは反対意見はあれど、ほとんどが賛成であった。

全ての物事には、賛成も反対もある。

僕は予想以上の反応に驚いた。

僕は間違っていなかった。

確証バイアスではない、本当の社会的正しさ。

心から悲しみが引き、少しの高揚感を感じた。

味方がいる。

そう思うことでいじめられるのではないかという恐怖心は、雨上がりの空の雲のように消え去った。

いつも通り寝て、起きて、登校。

一つ変わったことは、僕に対するクラスメイトの対応だった。

冷たい視線で、少し距離を取っている。

元々僕は人間が好きじゃないから、好都合だった。

体育でバスケットボールをした時にボールを貸してくれないのは困ったが、自分より遥か下の下等動物だと思うといい気味だった。

文化祭までの二週間はあっという間だった。

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