第10話公爵領への道中
――状況終了。お疲れ様。
私達は王都を離れ、国内の最大勢力を誇るギルク公爵領へと向かっている。
道中帝国兵の部隊が街や村などを占領、略奪行為を働いているために順次殲滅、戦闘行動を繰り返している。
残された武装などは自衛ができる程度に残しあとは吸収させてもらっている。
下手に権力者に武装が行き渡るとろくなことにならないしな。
もちろんアーマメントを操る私達は、救助した彼らとはコミュニケーションはとっていない、無言で殲滅し無言で去るだけだ。
ダガラ親子は、みすみす滅ぼされた王族に名を名乗る資格はありませんわ、だそうだ。
なにかしら心に折り合いを付けることが出来たのだろう、次々と兵士共を殲滅していたしな。
キルテちゃんの母親“イルメシア”。やはり親子なのか気高き意思を秘めた翠眼に紫髪の清涼感を感じさせる色合いは王者としてのカリスマ性を感じさせる。
背が高く線の細い彼女は仕事のできるキャリアウーマンの印象を思わせる。
包容力に溢れる身体に、頼れる雰囲気を持つ強い女性だな――声に出して言うと睨まれそうなので言わないけれどな。
キルテちゃんはちっこい割に、将来の姿が安易に想像できる妖艶な色気があるんだよな。何でだろう?
現在、イルメシアに義手や義足を製作できないか四苦八苦しているところだ。精神感応物質/仮称オリハルコニア。まあ名称はカッコいい方がいいだろう?
オリハルコンじゃありきたりだし、調べてみたけれど国によって名称が違うっぽいんだ。関税でも潜り抜けようとしたのかね? イルヒ法国じゃ聖授鉱石と言う名称らしい。
帝国では戦略物資扱いでS-77とか、商圏では
ここで私が関わって来るのがあの聖泉付近のみで採掘されていたそうな。
現在は取り尽くされておりなかなか見つからないというんだが……。
えっ……まさか私の排泄物とか言わないよね。
吸収圧縮された際に取り切れなかった、魔臓やそれに属する素子か何かなのだろうか? 現在の私ならば銀の生成よりも、エネルギー消費は抑えて生成できる
義足は比較的パーツの点数を抑えて製作し、すでに装着してもらっている。
指の先が不格好だがしばらく我慢して欲しい。
コクピットに座る親子に労いの言葉を掛けると、ウォーターサーバーから飲み物を出すと、コップを嵌め込める簡易テーブルに置く。
私が焼いたおやつのクッキーも並べ、甲斐甲斐しくお世話をする。
アーマメントのまま移動をしているのだが、簡易キッチンの再現までできるようになってしまった。
先程出したクッキーも移動中に小麦を練って焼いていたものだ。
食材や財宝は背部ラックにコンテナを設置して保管しているが、これって私戦闘のできるキャンピングカーとかじゃないよね?
最近パーソナルに戻っていないんだけど……。私、必要なかったり?
魔臓結晶の生成と魔導具開発、今の課題はその二点かな?
単独行動の際に近接武器のみが唯一の兵装なのが心許ないからな。ああ、そういえば槍の投擲はできるんだが。
なぜ私に魔臓をくれないんだご都合主義。
兵装はジャンジャカ作れるのに使えないってなんて無能アンド無能。
アイテムボックスとかッ! 空間転移とかッ! ファイアボールッ! とか言いたい。
カセットコンロ並みの火なら出せるよ? 魔導具で。
高火力な兵装は魔臓所持者じゃないと使用できない゛んだよお゛ッ!!
低火力なら魔臓の有無によらず技術で再現できているらしいが、現在解析中。
景色のいい湖のほとりにコンテナを降ろして休憩を取っている、夕日が湖面に反射しており、とてもノスタルジックな気持ちさせてくれる。
今日の夕食である、私、特製のシチューをコトコトと煮ている。
公爵領まで飛んで行ければいいのだがいくら未完成の魔臓ジェネレーターがあるとはいえ操縦者にも負担が行く。
ついでに帝国兵をお掃除もしている為、進行速度は遅い。
魔臓を収集し実験を繰り返して、機能改善を行っているので損はしていないがな。
「できたぞ。冷めないうちに食べるといい」
木製の器にたっぷり乗せられたシチューに焼きたてのパンをテーブルに配膳する。お世話係のスキルが環境適応能力によりバキバキに熟練度が上がっていくのがニクイ。
「あらあら、ありがとうシンタさん。いつもこんなに美味しい食事を頂けるなんて」
「シンタ。まだクッキーある? また食べたいなぁ」
キルテちゃんもとうとう遠慮の“え”の字もなくなりましたね。ええ、嬉しいですけど。
コンテナに満載された荷物の半分は高価な調味料が締めている、軍の物資を強奪する際に甘味料を優先して接収するんだもんな。
こりゃもう一つコンテナが必要だろうな、私はシチューを味わいながら度数の高いブランデーもどきを嗜む。
この大陸では穀物類が食の基本だが果実類の生産も盛んで、エールよりもワインの生産量が多く、蒸留技術があるのでワインを蒸留し生産されたブランデーが多い。
「私も水割りで頂けるかしら? クラッシュアイスもお願い」
「はいはい。お母様。仰せのままに」
「もうっお母様ではなくイルメシアって呼んで?」
製氷道具で氷を製造するとピックでガリガリと氷を砕いていく。
熱量操作で火が作れるのならばその逆もまた然りだ。
案外、娯楽要素以外は地球の現代文化に近いものがあるのかもしれない。
あの王都での葬式以来イルメシアの距離感が近い、いや近すぎるな。
確かに私は年齢的に言えばキルテちゃんやイルメシアよりも年齢が上だからな、 どう思っているのかわからないが、あれだけのことが起きれば辛く悲しいし、寂しさもあるのだろう。私にできる事があるのなら彼女達に寄り添って行こう。
「どうぞ。“イルメシア”」
ブランデーの入ったコップをイルメシアに渡し、自らのコップを軽く掲げると乾杯の催促をする。
「ふふふ。乾杯っ」
ほら、未成年であるキルテちゃんにはキンキンに冷えたブドウジュース上げるから拗ねないの。頬を膨らませる顔も可愛いね。ああ、この世界に飲酒の年齢制限はないらしいけどね。
お腹もくちくなった所で簡易テントを設営、組み立て式のベットに毛布を掛ける。この大陸にも四季はあるらしいが比較的寒暖の差は緩い。
大陸に入植の際には怪物天国だったらしいのだが、≪大陥没≫で消滅したことにより残りの下位の怪物は人間の手になんとか駆逐された。
農業が盛んで飢饉などは無縁らしいが、塩などの生活必須物資が経済の肝を握っているのだとか。岩塩の採掘できる場所がダガラ王国には希少で苦労したとか。イルメシアが訥々と語っていた。
衣食満たされれば“欲”が湧く。それが兵器の開発、戦争ムードを加速させたんだろう。満たされなければ奪い満たされれば奪い。人間の欲という者は際限ないな。
ランタンに灯されたテント内には親子がひとつのベットに寄り添い寝て居る。
彼女達にはその時間が何よりも安らげるのだろう、私は湖に餌の付いていない釣り針を垂らす。
――虚無の耐性は付いているんだろうな?
[――
その語学力はスマホの辞書からきているのかね?
いずれこの世界か去る時が来るだろう、消滅の危機に見舞われるのは勘弁してもらいたい。
ちょくちょく脳内で相方がスマホで地球の情報を検索しているの知っているんだぞ? 脳内ではなくコア内だが。謎の電波でも飛んでいるのか?
ゆっくりとできる際に見忘れているアニメでも見させてもらうとしよう。
願いを叶える空間でスマホを獲得しておいてよかった。
吸収した際にコアに紐づけられているのか、スマホ機能として検索、閲覧能力が備えられていたからな。
ブランデーを注いだコップの氷がカラリと音を立てて溶けて行く。
◇
キュラキュラと脚部のキャタピラが土煙を巻き上げる。
コクピットに振動は来ていない、アブソープ機能としてサスペンションなと様々な機能更新の努力を行っている。重力装置など燃費の悪い機能は取り付けてはいないがな。
曲がりくねった山道を抜ければ眼下には公爵領が見えて来る予定、だそうだ。
領境には検問施設などがある。ギルク公爵領は特に力を入れているらしく危険意識が高い、税制も低い割には設備投資、防衛戦力に力を入れダガラ王国ほ最強の矛と言われている。
まあ公爵と王族の関係性といえば血筋を見ても親戚といえるものらしい、数代に渡り結婚や婚約、血の混じりを絶やさないようにしていたらしい。
キルテちゃんの友人“ギルク イラ シャリウ”は大層仲が良かったそうな。
当初は王都の危機に駆け付けるとのことだったが、電撃的侵略で王都占領により間に合わなかった。
現在はなんとか生き延びることが出来たので、友人のことが心配になってきている。逸る気持ちを抑えつつ操縦桿を握る手には力が入っている。
山の影を抜けると眼下には黄金の麦畑が伺える――はずなのだが。
「帝国ぅぅぅぅううううッ!!」
キルテちゃんが憤怒の形相で焼け落ちて行く麦畑を睨みつける。
遠目に見える領の外殻に建てられた砦では今だ戦闘行為が行われている。
数多の車両が外壁に突撃し、今にも領内に侵入を許しそうになっている。
――行けるか?
「もちろんよッ!!」
ん。頼もしい事。私は自身の仕事をしましょうかね。
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