第9話死を受け入れるという事
朝焼けが美しく目に映る景色の中に無粋な飛行戦艦の巨体が、地面に影を落としながら王都方面へと進行している。
城も今や完全に消滅しており、防衛行動の必要がなく逃走を選択するのがベストな選択だ。
今もなお、この場にいるのは今後の移動先に公爵領地がある為、私にできる範囲で助力をあの親子が願ったからだ。
アーマメントされたコクピットは複座式に変更してあり、体を固定できるようベルトも備え付けられてある。
背部ラックから伸びる
今回、遠距離射撃を担当するのは母親であるイルメシアが行う。
手足が切断されている為、射撃兵装を使用できるように銀を媒体に神経接続を行っている。操作性が格段と向上し、近接戦闘にキルテちゃんが専念できる。
昨夜から徹夜で収束、拡散の魔導式が新たに砲身に刻まれることにより弾丸の初速、射程距離の向上が施している。これ以上の兵装の改良、改善は時間が足りないため今後の課題とする。
現在、私の全高が十メートルを越えており、飛行戦艦の移動ルートの地面の中に隠れ潜んでる。
作戦内容は、隠蔽した機体の直上を戦艦が通過する際に、大型の魔導銃で戦艦下部の装甲にダメージを与え、背部ブースターにて接近し大型ランスを展開――吶喊。ひたすら破壊行動を行う。
――間もなく上空に飛行戦艦接近。お二人さん準備は良いかい?
「ええ、問題ないわ。なんだかワクワクしちゃう――キルテはこんなに楽しそうなことをしていたのね」
「待ちきれないくらいだわ。母様。一緒に帝国兵を殺してしまいましょう」
おお。やっぱり親子なんだねぇ。
――相方。
射撃補正と、吸収解析よろしく頼むな。恐らく高エネルギーを確保した瞬間に処理能力が急激に上昇するはずだから、分配する優先順位を決めておけよ?
[――
間もなく戦艦が機体の直上に到達、でかい戦艦の腹が見えて来る。視界に影が掛かり緊張感がわずかに走る。
――
五秒間。地中から顔を出したアーマメントが全力射撃行う。
>>モード/ランス
飛行戦艦の下部装甲の損壊を確認。両腕に大型ランスを展開。
>>モード/ブースターパック
背部ブースターを展開――始動!
モニターに映る
ギャリギャリと、装甲を引き裂く破壊音がとても心地いい。
――中心部に向かって全力射撃。キルテは周囲の存在する全てを切り裂け。
「了解」「わかったわ」
下部の格納庫付近に侵入した為、部隊展開の準備で待機していた兵士達の血飛沫が大量に舞い上がる。
運が悪かったなと内心呟きながら、銀がジュルジュルと啜り食う。
敵さんの魔臓が、魔法や魔導機関を使用する彼女らの増幅機構/生体ジェネレーターにしか思えなくなったな。加工し圧縮して魔臓結晶とか作りたい。
背部のシリンダー内にはミキサーされた血液と肉片が回収されている。パーソナルモードに戻る際に吸収してしまうから、機体展開時に貯め直ししなければならないのが難点だな。
モード/アーマメントへの設計図は登録してあるから、兵装の展開は問題ないがナマモノは生成できないんだ。
ブツブツと愚痴を言いながらもすでに数百人程度の血肉を回収している。
戦艦の外部装甲はそれなりに耐久性は高いが、内部からの攻撃には脆いものだ。
私らに攻略されてすぐには対策ができないだろうし、予測もしていなかったのだろう、小型の機動兵器化した機体なんぞ想像もできないだろうに。
あちらこちらで火の手が上がり始めている。可燃性の燃料は確認できていないので恐らく内装に木材を多用して軽量化を図っており火種となり燃え広がったのだろう。
視界が悪くなり始めたので、全方位の吸収を開始している。
戦艦内部は防御する方法がないのだろう、適当に射撃を行うだけでダメージを与えることができるのでダガラ親子は楽しそうに魔導銃を乱射している。
おっと。ようやく動力源に到達したようだ。破壊を行わずに少し時間を掛けて解析吸収を行うとしよう。
◇
戦艦が墜落したのだろう。轟音と共に周囲の装甲に挟まれそうになる。
まもなく動力部の解析が終える頃なので、残りの兵士どもを殺してしまおう。
――目標の解析に成功した。あとは残敵掃討だが……気分はどうだ?
「最高よ」「最高だわ」
動力部以外の制御機能など特に目新しいものが見当たらなかったため、機関部をなるべく損傷させずに吸収を行う。
装甲を引き裂きつつブリッジに到着するが、私の上半身程度しか侵入できない。
携行タイプの魔導銃では機体に損害を受けないのでひとまず様子を見る。
床に倒れ伏している兵士が数十名。
華美なマントをはためかせている、いけ好かないキラキライケメンがこちらを凝視している。あれは帝国の上位貴族かなにかか?
『あれは……帝国の第二王子――クルスティン。気持ち悪いものを見てしまったわ。キルテ。ばっちいから見ちゃ駄目よ?』
『母様。あんな毛虫以下のゴミクズなんぞ認識すらしていませんでしたわ。パーティーでも気持ち悪い視線を向けて来た真正の幼児性愛者です』
――お二人さん外部スピーカーに声出てますよ。まあワザとですけど。
私から伸びた黒針が操作関係の機器を丁寧に吸収していく。
処理能力の向上は全能感が湧き出してくる、相方好きなだけ食っていいぞ。
[――
おい。フランス語になっているぞ。これも一種の成長なのだろうか。
グビグビ吸収している間に第二王子とやらが、やかましく叫び散らしている。
「この声は――王妃と我が嫁であるキルテかッ! なんという僥倖ッ!! 行方不明になっていると連絡を受けていた時は胸が張り裂けそうであった……すぐに駆け付けられなかった我が身の至らなさ。深く反省しようッ!!」
帝国の上位将校や貴族という輩はこうも脳内ハッピーなんだろうか。自らの身の危険というか危機感が無いのだろう。
幼児性愛者と言われているが昔のキルテちゃんに対する行為だよね? 今じゃないよね? 今だったら私も幼児性愛者と言うことに。――キルテちゃん何歳なんだろう。聞くのが怖いな。
『母様。帝国に報復するチャンスですよ。嬲り殺しましょう。次期皇帝のスペアなのが惜しいですが』
『そうね。シンタさん操作権譲っていただけないでしょうか?』
――
>>モード/ランス
指先を細く鋭いランスに変化させて、周囲の上位将校の胴体を一斉に突き刺し、ソードへと瞬間換装、人間の塊は上下に別れ千切れ落ちる。
うわぁ。思考と展開速度にラグが無かったぞ。母親も操縦センスがかなり高いな。まあ直接腕や足の神経に接続しているのだから当然と言えば当然なのか?
操作基盤を破壊しないように次々と突き殺していく。
さすがの第二王子とやらも危機的状況に気づいたのか青い顔をしているようだ。
「ま、待て。帝国のに君たちを受け入れる準備があるッ! 親子揃って側室ならば席が空いている――そ、そうだ、正妻の座と、この王国の支配権も用意しよう!」
王子の側近である両隣に立ちすくんでいた将校も、機体の指から伸びたランスよる刺突で突き殺され、十個肉塊へと変わり果てた。
「たのむッ私は帝国にとって重要な――ぎぃぁぁぁあッ」
王子の右肩が貫かれるとそのままゆるりと空中に持ち上げられる。
かなりの激痛が走っているのか声なき悲鳴を上げ続けている。
タイミングを見計らい左足の太ももを、串刺しにされると空中に標本のように張り付けられた。
『ふふ、ふふふふ、あはははッ!! こんの糞ガキがッ私のッ! 旦那とッ! 可愛い息子をッ! 殺しやがってぇええぇッ!!』
ヒュッ、ランスを針のように細かく変化させると股間突き刺し。グリグリと回転させる。ああ。失禁どころか血が噴き出している。お母さん。そのランス私なんですよ……いえ何でもないです。楽しんでください。
『クソがックソがックソがックソがッ!! ――シンタさん操縦席の前面を開けて下さる? それと手ごろな短剣を頂けないかしら?』
――アイマム。
すでに王子は虫の息で激痛により意識の混濁が始まっている。
操縦席の前面を展開するとシートを王子に近づけて、彼女の作業を行いやすくフォローする。
「あら。シンタさんは気が利くのね――皇帝への遺言はあるかしら?」
ビクビク震える王子の顔面は敢て無傷にしているようだ、辛うじて呻くように声を絞り出し命乞いを始めた。
「た、たしゅけてくだしゃい……ごめんなしゃぃ……」
「――なんて言いましたの? 聞こえませんわ」
黒鋼製の短剣を二本彼女には渡してある、一本をゆっくりと王子の咥内へ侵入させる。
「もう一度聞きます――なんて言いましたの?」
「た、たしゅけ――ぎゅぇええぇええぇええッ!」
短剣をぐるりと回転させると咥内をズタズタに裂傷させダクダクと血液が零れだす。もう会話することすら困難であろう。
「貴様は喋ることを禁ずる――貴様は見ることを禁ずる」
咥内に刺した短剣を引き抜くと、ゆっくり眼底へと二本の短剣を味わうように突き刺す。もちろん殺さずに。
「――貴様は生きることを禁ずる」
引き抜いた短剣の刃を寝かせて心臓を狙いすまし、勢いよく突くとグリグリと刃を回転させる。肋骨の隙間を狙いすませて心臓を仕留めたようだ。うーん玄人。
トドメに短剣を頭頂部から全力で振り下ろしてブリッジに王子の脳漿をブチ撒けた。お母さんカッコイイです。娘さんキラキラした目で見ていますよ。
――少しは気が晴れましたか?
「――ええ。とっても」
生涯唯一と言えるほどの晴れやかな笑顔を頂きました。
◇
飛行戦艦の残骸や死体すら残さずに全てを吸収し終えると街道の真ん中に先端の鋭いモニュメントを作成する。
こっそり取って置いた王子の残骸を、乱雑に突き刺して飾り付ける。
――旦那さんの遺体。埋葬されますか?
「――回収してくれていたのね。息子の遺体はなかったようだけど……ありがとう。城の存在した丘へ向かってくれないかしら」
四角いキューブ状の鉄箱に頭部を保存している。しかし日にちが経っているために腐敗が進んでいるはずだ。
私は一番景色の良い場所に到着すると、深めに地面を抉り取りコクピットから彼女たちを地面へと降ろしてあげる。
――お顔を拝見されますか?
「ええ、お願い。どんな状態でもあの人を最後に見ておきたいの。火葬の準備だけお願いします」
――ええ、少し森に行っています。
夫婦、親子の最後の別れなのだろう。他人の私が邪魔をするわけにはいかない。
丘を離れる際に周囲に響き渡る泣き声が聞こえた気がした。
枯れ枝を簡易に組み上げて種火を付ける。火葬には時間がかかるそうだがそれ生きる者のが死にゆく者への区切りを付ける時間ともいう。
気付かぬうちに死なれるよりか“死んだ”という出来事を受け入れることが大事なのだそうだ。
私には王様という重圧や責務など分からないが彼は愛されていたのだろう。
いつかは私も愛され惜しまれててみたいものだな。だが私の死は伴侶にすら渡さない。伴侶の死だけを強欲に私だけの物にするのだ。
星が死に絶え人間がいなくなろうとも永久に私は楽しみ続ける。
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