第8話目覚める母親

>>命中/照準補正完了/次弾装填


 カシュン、カシュンと砲身に順次装填されていく圧縮石弾が射出されていく。


 射撃補正能力が向上している為か次々と兵士の胴体が四散している。


 地平線までの距離はそう遠くはないのだが、高台に建設されたこの城の最上階からは近場の街並みまで見通せている。


 索敵能力が高くないために視認できる範囲と射程の範囲内ならば殺しつくせる。

 

 初期状態よりも砲身が延伸し三門に増えた砲口からは、兵士共の生命を食い漁る弾丸が雨のように降り注ぐ。

 

 近場の街並みに降り注ぐ弾丸は壁面を穴だらけにして、衝撃に耐え切れず崩れて落ちて行く行く。


 今更住民の心配をしていられる状況でもないしすでに王国は崩壊したのだ。

 

 見知らぬ他人など知ったことか。キルテちゃんもそのことには折り合いをつけているのか楽しそうに殺戮を行っている。


 一時間程射撃を繰り返しながら戦果の確認を行っている、取りこぼしは多少諦めているが、視界内には城壁付近に無残に散らばった死体の山が晒されている。

 

 帝国軍が駐屯している街並みに対し継続的に射撃を行っている。


 これ以上の連射性能と破壊力を出すには兵装の開発が間に合っていない為、街の壊滅までには至っていない。残念な事にな。


 かなりの間砲撃を繰り返していくと、城の立派な塔の石材は吸収し尽くされ周囲の景色が気持ちよく眺められる程にスッキリとしている。


 あとはキルテちゃんの気分がスッキリするのを待つだけだが。


『もっと破壊し尽くせる兵装はないの? 街がまだあんなに残っているじゃない』

 

 ――砲門は増やせるけれど効果的に破壊するならば、接近して連射性のあるキャノンアームと高速で吸収することしかできないよ。


 帝国の兵装でも火薬を使っている兵装が無い為に、物理的な攻撃を行う武器しか存在していないのだ。


 まだ火薬や可燃性のある液体を解析、運用できる兵装が無いので、飛行戦艦に装備されているものを流用しているにすぎないのだ。


『ふぅん。母様がまだ眠っているので、ひとまずお預けですね』


 ――兵装の開発は行うけれどすぐにはできないかな? キルテちゃんの母親が目を覚まし次第、ここから移動しようかと思っているけどね。それと宝物庫を見つけたんだけど精査してくれない?


『わかった、期待して待っているわ。宝物庫って何?』


 ――いや、城を探索しているときに見つけてしまったんだ。重要そうなものを持ち出そうかと思ってね。よろしく。


 戦闘行動を停止させるとキルテちゃんには母親の居る部屋に向かい休憩をしてもらう。私は索敵をしつつ城壁付近の兵装や魔臓の吸収に勤しむとしよう。







 宝物庫を塞いでいた壁面を吸収すると、目の前には金銀財宝に宝剣らしきもの魔導具らしき指輪、ガントレット、書籍などが山のように積まれている。


 やはりキルテちゃんも女性なのか目をキラキラと輝かせている。


「キルテちゃん目を輝かせ過ぎだよ。装飾品や護身具になりそうなものを選んでね? 魔導具っぽいものは解析させてもらうために吸収してもいいかな?」


「え? う、うん。 あ、これなんて可愛い。私の瞳の色と同じだわ」


 ちなみにキルテちゃんの瞳の色は深い翠眼だ、深いエメラルドのような宝石で蠱惑的な輝きを放っている。


 全ての指に宝石を嵌めていっているけれどそれで敵兵を殴るの? それと成金みたいになっているよ、まあ似合うんだけれども。


 キルテちゃんも装備できそうな武装関連を除き、私が使用できそうな装具を解析して反映する。面白い構造だったり高硬度な希少金属も見つかった。


 硬度の高い金属は装備を具現化した際の、私の表層に薄く延ばして強度を出せるようにしておこう。


 私には吸収できない鉱物や金属はあるのだろうか? 普通に吸収できているがよく考えると銀の能力がとても恐ろしくも感じる。


 宝物の中には魔臓の能力を収束、拡散させるのに特化した指輪や。熱量、流体操作ができる杖。錬金術による魔導具の製作の設計図などがあった。


 これを解析すれば魔導具の製作もできるし機能に組み込むこともできるな。

 

 まあ私には魔を操る魔臓とやらが無い為に、キルテちゃんに頼らざる得ないが……。


 魔臓の解析に物凄く手間がかかっており、数パーセントしか判明していない。


 処理速度上昇の為に、帝国の工廠でも襲って魔導回路や基盤を食べ尽くしてやろうかとも思っている。


 兵装は開発できる目途が付くのだが、使用できないのは本当に悲しい。


 アーマメント化して物理偏重の攻撃ならできるけれども、光学兵器や大型火砲でドンパチしたいよね。


 そう考えると操縦者であるキルテちゃんとはいい関係性かもしれない。高火力の兵装を使用するには美少女が機体に乗り込まないと真価を発揮しない。


 それってどこの魔法少女アニメなんだろう、その主人公であるキルテちゃんは物騒な銃器で兵士の内臓を地面にブチ撒けているのだけれども。





「どうだい? 持ち出せるだけ持ち出したらコンテナを作って山にでも埋めに行こうかと思っているけど」


「あら。吸収しないのね。いつか掘り起こせる時が来たらいいわね」


「まあ、地中深くに埋めるから財宝として記録しておくよ。残りは兵装に利用できな貴金属的な価値しかない財宝だしね。お金が無かったら帝国を襲えばいいし」


「ふふふ。そう言われて楽しみにしている私がいるのも可笑しな話よね――ああ、私のこの初心な体があなた色に染められてしまっているわ」


「何言ってるんだい。キルテちゃんの本質はもともと魔性の女――悪女だったんだよ?」


「あら、失礼ね。泣いちゃうわ。泣いちゃうわよ?」


 メソメソと泣き真似を始めたキルテちゃん。そんな小賢しい所やこの小気味いい会話がとても楽しい。君と出会えて良かったと思っているよ? 


「ほらほら、そろそろ夕食にしよう。先程戦闘を行ったんだ、身体も心も休めないといけない。私は夕食を作ったら財宝を埋めにでも行ってくる――恐らく明日は飛行戦艦が来るかもしれないからな」


 そう言うと、キルテちゃんの瞳には戦意がギラギラと芽生えている。


 先程から傍受している通信の内容に、帝国内部にある二機目の飛行戦艦にて降下作戦を行うとの作戦が立案されている。


 まあ、航空戦力が有ろうとも撃墜して見せよう。


 高ぶる感情を胸に秘めつつも、加熱された鍋の中に特製シチューの具材を放り込んでいく。






 周囲が暗闇に包まれ、脳内では常時索敵結果を反映し警戒をしている。


 数人程の偵察の兵士が城に近づいてはいたが、ある程度時間が経つと撤退していった。


 王都の全てが荒野という惨状になっていれば、そうなるのも仕方がないと思う。

 

 遮蔽物すら存在していない王都の異常事態に、帝国も首を傾げているだろう。


 まさか神殿で祭られていたご神体様とやらが、暴虐の限りを尽くしているとは思わないだろう。


 もしかしたらイルヒ法国辺りに情報が伝わっていれば、歴史書辺りに私の事が記されているかもしれない。


 イルヒ法国が所望するダガラ王国北部の聖泉とやらにも向かってみたいが、王国と法国の間に位置する為、必要が無ければそこまで行きたいわけでもない。


 帝国が王都を占拠しているのと同時期に、周囲の公爵や伯爵領を戦力を導入して侵略を進めている。ダガラ王国を全て占拠する事にはまだまだ時間がかかるだろう。


 この王国は中央集権型ではなく、公爵や伯爵などが強力な独自兵力を持っている為、もしかしたら帝国の兵力に抵抗しているか公国として独立宣言する可能性も否めない。


 今までの歴史の中で独立宣言をしていないことから、王族は意外と好かれていたのかもしれないな。キルヒちゃんも公爵や伯爵の令嬢と仲が良かったって言っていたし。

 

 友達の救出までとはいかないけれども、帝国兵力を多少でも減らしておこうかなとも思っている。これはキルテちゃんと相談だな。


 財宝はコンテナに収容し、私の機動力を損なわない程度に積み込む準備をしてある。キルテちゃん親子の寝室もすぐさま移動できるように低階層の部屋に移ってもらっている。


 すでに城の大半が吸収されており、朝方には消え失せた城の跡地が見えるだけだろう。できれば母親に早く起きて欲しいのだが。





「――キ、ルテ。キルテ…………」


 部屋の片隅に待機していたのだが願い叶い夜遅くに母親が目を覚ましたようだ。

 

 キルテちゃんは母親に抱き付いて未だにスヤスヤと眠っている。


「あ……あぁ……キルテ……良かったわ……」


 腕の中にいるキルテに気が付くと母親の目元からは滂沱の涙を流す。嗚咽すら聞こえ始めキルテちゃんがそれに気づく。


 切り落とされた腕の先端で何とか頭を撫でようとするもうまく行かない。

 

「母様ッ! 私は生きておりますッ! 生きておりますッ! ああ、よかった……よかった……」


 感動の親子の対面だが母親の精神状態はすぐさま自害に至るような状況ではなく安堵する。女王というものは強くなくてはやっていけないのだろう。


 しばらく家族との再会の時間が経ち、キルテちゃんが私の事を説明してくれている。


 最初からずっと敵意の籠った視線で睨みつけられていたのだが、説明を聞くと申し訳なさそうな視線と感謝の言葉を掛けてくる。


「ご神体様……いえシンタ様。私ともども救っていただき本当にありがとうございます。お渡しできるものはこのようなボロボロの身体と残っているかも分からないこの城の物でございます」


 私は軽く頭を下げ話を促す。


 現在の王都、城の状態、救出に至るまでの顛末、私の戦力、今後の行動指針を語り始める。キルテちゃんマジ有能。私、口下手だから。


「キルテ……強くなったわね……ふふ、ほんのちょっと見てない間に旦那様とすら見つけて来るなんて――母さん嬉しいわ」


「え……もうっ! からかわないでよねッ!!」


 ふふふ。現在、料理技術を磨いているのですぞ、親子のじゃれ合いが落ち着いた頃合いを見て話しかける。


「申し遅れました。私、“シンタ”と名乗っております。元はご神体様と呼ばれた紅き宝玉ですが今はこの姿になっております。もちろん子を成すことも可能ですよ? あいたッ、キルテちゃん叩かないで」


「ふふ、私はダカラ アラ イルメシアと申します。女王を名乗っておりました。現在は崩壊した王国ですけれども……」


「――あなたの心は気高くとても美しい。母として、女王としてのプライドを折ってはならない」


「――ありがとうございます」


 いささか早いが朝食の準備を始める、飲食ができる程度には回復しているイルメシアの為に消化の良い料理を作るとしよう。


 食事の後には、この城を吸収しつくして移動を開始する。

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