第4話 両断する魔剣、不形の聖剣
濛々と立ち込める土煙。それは魔力の力で音を操る魔獣、シャウトウルフは己の放った
土煙の向こうに転がっているであろう新鮮な肉の匂いを嗅ぎ取らんと、しきりにフンフンと鼻を鳴らす。
「ホント…初見相手じゃなくて良かったよ」
次第に薄くなる土煙の中から、真っ白な肌を晒したテオが冷や汗をかきながら姿を現した。
「ガ…グルル!」
テオがシャウトウルフを狩りの獲物と定めて森に入るのは初めての事ではない。だからこそ、木の幹から響く狼の声に惑わされること無くシャウトウルフの初撃を捌けたのだから。
「やっばり便利だよな。好きな形に変化させられるのって」
テオが握りしめる聖剣は
テオは身を守っていた聖剣の形を盾から細身の剣に戻し、その切っ先をシャウトウルフに向ける。
「…っ!」
シャウトウルフに向かって駆け出し、一息に聖剣を突き出す。
「グァ!」
身体を沈める様に聖剣の一撃を躱し、曲げた膝を伸ばして飛び上がりテオの喉を食い千切ろうと大口を開く。
「グ、ガ…ァ?」
何が起きたのか理解できずに視線を彷徨わせている。
「魔力のお陰で遠距離を攻撃する能力を獲得したのは良いが、狼の武器である牙を疎かにしてたらしっぺ返しを受ける。…いい教訓になったよ」
狼の喉に奥深く差し込まれた魔剣が高速で動き、シャウトウルフの体が縦に切り分かたれた。
「もったいいないなぁ」
背後からテオの物とは異なる声色で、親しい者に語り掛ける気安さがある。
「ベノ」
木の上から勢いよく飛び降りた少女は、着地と共に小さな悲鳴を上げると小走りで駆け寄ってる。
「ウルフの魔石、はんぶんこ…」
「こいつの魔石は喉にあるからな…刺した時点で真っ二つだ」
「もったいなーい」
魔族の間では魔石は多目的な用途に使われている。夜間の明かり、魔物よけの結界、井戸の底に沈めて水源。蛮族の様な生活を余儀なくされるテオたちにとっては、森の出口で塩や布などの生活物資と交換できる通貨だ。
「はんぶん、ちょーだい」
「…後ろ足は森に返せよ」
「はーい」
取った得物の全ては持ち帰らず、一部をその地に返す。記憶に残った古い狩人の習わしに意味など無いのだろうけれど、自分が擦り切れて消えてしまうまでは自分を保つために足掻きたい。
「ておー?」
「どうしたベノ?」
「みずうみいこ~?」
「そうだな…汗でベトベトだ」
小柄な少女に手を引かれ、この半日の汚れを清算すべく湖を目指す。
「ついでにウルフの肉も水洗いだ」
「おいしくないけどね~ウルフ肉」
「臭くて硬いからな…あの狼」
「ねー?」
山から流れる雪解け水が行き着く、魔獣が住まう森の湖で五人の忌子は出会った。二人は血にまみれ、一人は飲み水を求め、一人は魔獣の水飲み場を探し、一人は別の誰かを求めていた。
「ベノ」
「うん?」
「あいつ等も来ているかな?」
「むふふ、逢えたらいいねぇ」
「…そうだな」
ベノの紫色をした髪を撫でながら、テオは全員の生還を夢見ている。そんな現実はやって来ないであろうことをどこか確信していても。
「ところでベノ」
「ん~?」
「いい加減、自分で獲物を取れ」
「むー、しょうがないじゃない!」
「取れてもたべられなくなるんだからぁ!」と情けない彼女の言葉に本当に年上なのかと額に手を当てる。
「魔剣に頼らず罠を仕掛け…ても魔獣相手じゃ無駄か」
「魔獣は賢いからねぇ」
魔獣以外の野生動物なら罠にもかかってれるが、動けない獲物を魔獣が横取りするのはまだ良い方で、罠にかかった動物を餌として此方を狩ろうとする魔獣に奇襲されれば子供の身で生存難しいだろう。
「ついたー」
テオは太陽の陽で煌めく湖を眩しそうに目を細めた。
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