第29話 番外編 1

 王都へと移動していた領主様とラウロがようやくアルジェントロ領へと帰ってきた。

 ルカ様の代わりにピアが王都に行ったという事は知っているし、あのボサボサ頭のピアが王都で何かやらかしたのかもしれないけれど、わざわざラウロが出向かなければならない事態にまでしたっていうのが本当に癪に触るわよね。


 領主様が不在の間はルカ様が魔獣討伐に出ているというのだけれど、全然うまくいってなかったから、ラウロが帰って来て本当に良かったわ!


「あら?ジュリーあなたどうしたの?」

「ミリアム助けて!」

 ルカ様に見染められたジュリーは、アルジェントロが所有する別荘の一つで、ルカ様と蜜月を過ごしていたのだけれど、奥様たっての願いで領主館へと戻ってきたのよ。


 ジュリーは私と同じ男爵家の娘なんだけど、ルカ様の妻として認められたようなものだから、お部屋もルカ様と続き部屋を使うように言われていたし、綺麗なドレスも何着も作っていたのを知っている。

 奥様からも可愛がられていたジュリーだけど、荷物を抱えて、外で泣いているものだからびっくりしてしまったわ!


「私・・・ルカ様に捨てられたみたい・・・」

「えええ?どういう事?」

「王都に行ったピア様が身分の高い方と結婚したから、ルカ様も男爵の娘なんかじゃなくて、もっと身分が高い女性と結婚するから、お前はもう要らないって奥様が言い出して」

「まあ!」


 ピアが身分の高い人と結婚だなんて初めて聞いたけど、だったら、奥様はそれ以上の人とルカ様が結婚するように指示するでしょうね。


「でも良かったんじゃない?ルカ様ってはっきり言って、魔法の力が下の下の下っていう話だから」

「ええ?魔力が多いんじゃないのぉ?」

「それがそうでもなかったみたい、小型魔獣の一匹すら殺せないってみんなが言っていたもの」

「嘘でしょ?」


 辺境だけに、強いが正義というところがアルジェントロにはあるのよね。


「ピアの百倍魔力が凄いとか言っていたでしょ?それを鵜呑みにしたのが間違いだったみたいで、魔法なんかヘボ中のヘボなのですって」


「えー〜、何それ、意味がわからないんだけどー〜私、弱い奴って無理なんだよねー〜」

「弱い奴が無理ってなんだ?」

「え?」


 振り返るとそこには泥まみれになったルカ様が居て、

「僕がピアより出来ないと言いたいのか?出来損ないのピアより遥かに弱いって言いたいのか?」

殺気立った瞳でジュリーを見下ろしている。


「あ・・私、仕事をしないとー〜―」


 二人を置いて、慌てて厩舎の方へと向かっていくと、馬から降りるラウロの姿が見えてくる。

「ラウロー!お帰りなさい!」


 私は駆け寄り、彼の腕に絡みつこうとすると、ラウロは私を弾くようにして突き飛ばした。


「今まで乱暴者だとピアに思われたくなくて、お前が腕にしがみついても我慢をしていたんだよ。それがイチャイチャしているように見えていたんだってさ。それに、ミリアムと俺は、結婚の約束とやらが結ばれていたんだったか?」


 ラウロは何を言っているのだろうか?


「私はラウロのことが好きだし!ラウロだって私の事が好きでしょう!だから、将来的には結婚して!二人で家を建てて暮らしてさ!」


「俺が愛していたのはピアただ一人だ!」


 尻餅をついたままの私を助け起こす事なく、ラウロは足早に遠ざかって行ってしまった。

 嘘でしょう?

 信じられないんだけど?


 誰も助け起こしてくれないから、涙を浮かべながら一人で立ち上がり、屋敷の母屋の方へ戻っていくと、執事のベニートさんが、

「私たちは全員、クビになったよ」

と、真っ青な顔で言い出した。


「王都に向かわれたピア様はヴァレリオ王子の妃となった。ピア様を虐待し続けたオルネラ様は離縁、ルカ様は廃嫡処分。ピア様を使用人の分際で冷遇し続けていた私たちも全て退職処分となったんだよ」


「嘘ですよね?だったら紹介状は?」

「王家に属する事になったピア様に対する対応を間違えた私たちへの処分だからね、紹介状なんかもらえる訳がないよ」

「そ・・そんな・・・」

「王家の一員となる令嬢を蔑ろにしたんだ、君の父上もきっと身分を剥奪される事になるだろう」

「う・・嘘よ!嘘!そんな訳ないわ!」

「ミリアム、奥様に許されているとはいえ、君はお嬢様の悪口をあまりにも言いすぎた」

「な・・・」


 ふらふらとした足取りで去っていく執事の後ろ姿を見送った私は、自分の部屋の物が全て外に放り出されている事に後から気が付く事になるのだった。

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