第26話

 これは自分の息子第一主義の甘々公爵が、なりふり構わず息子の真実の愛を応援したことによって発展した大事件という事になるらしい。


 滅ぼされたベスプレーム王国としては『ふざけんなよ!』どころの話ではなかったと思うのだが、


「まあ、終わった事は仕方がない。ベスプレーム復興にマスタンドレア王国が手を貸してくれるっていうし、ターラント共和国にはたっぷりと賠償金やイルマル・ヤルヴィ一族の身代金を請求するし、そこで得た金も、復興の足掛かりの一つにするつもりだからさ!」


と、ベスプレームの新たなる王となったベルタランは頼もしい事を言っている。


 ターラント共和国は王国みたいに君主制をとっているわけじゃないから、元々が一枚岩で出来た国というわけでは決してない。才智あふれる書記官の出現によって、多くの小国を飲み込み、勢力拡大を図ってきたわけだけど、征服された国々がいつまでも従順に言う事を聞いているわけもない。


 イルマル・ヤルヴィが捕虜となった事で、ターラントの勢力図は一気に塗り替えられる事になるだろう。国としての機密を持つヤルヴィを返還させるために多額の身代金を払うことは間違いないが、おそらく、国に帰っても処刑されるだけだと私は思う。


 マスタンドレア王国の第一王子である私、ヴァレリオ・マスタンドレアは、弟のエドアルドが成人した暁には、幽閉をされてからの毒杯を賜って死亡という運びになるのだろうと思っていたのだが、巨人が言うには、

「ああー〜、伝説の魔法使いヴァレリオはもうちょっと前に、王妃によって暗殺されるんだよねー〜」

という事らしく、


「そもそも、捕まった巨人、僕だけど、アルジェントロ領を踏み付けにして滅ぼしているはずだったんだよね?だけど、嫁の実家だって事で君が僕を倒しに来た時点で、ストーリーから逸脱しているから!君が嫁と結婚するっていう物語の展開にない事が起こったために、後の展開が随分と変わってくる結果になったんだと思うよ」


と、前世の記憶でこの世界を物語として読んだことがある、なんて事を宣う巨人は私にそう説明した。


「ああー〜!ピアが私の嫁で本当に良かった!ピア!末長く二人で幸せになろうね!」


 ソファに腰をかけた私は、膝に抱っこしたピアの滑らかな頬をすりすりと頬擦りしながら感嘆の声を上げた。

「ロックガーデンに、サラマンダー討伐に出向いて行って本当に良かったー!」


 側近のステファンがマダム・ソフィアに頼んで、ピアがサラマンダーを討伐に出向くように仕向けてくれた事が功を奏したのは間違いようのない事実。

 ステファンに高額のボーナスを支給してやらなくちゃなんないな。


「兄上!僕も!僕だって頑張ったんです!」


 犬のようにソファの前で膝をつくエドアルドは、頭を撫でてくれとばかりに私の方へと頭を向けてくる。


「おお〜!よしよし!エドアルドが頑張ってくれたから!ターラント共和国の心象も悪くせずに終戦調停に持ち込めたからな!えらいぞ!エドアルド!さすが私の弟だ!エドアルド!」

「えへへ〜、それほどでもありますけど〜」


 魔鳥で山脈を超えて移動をしてきたピアとエドアルドは、敵が野営を組んでいた地帯を全て泥沼と化した上で、奴らの武器や装備は闇魔法を使って全てを取り上げるような事をしたらしい。


 そうして裸同然となった彼らを土魔法を使ってターラントまで強制移動した為に、ターラント側は物凄く驚いたらしい。


 だがしかし、裸同然で皆殺し確定となっていた人々は、殺さずに祖国へと返したマスタンドレア王家に感謝しているし、大魔法使いの一族と畏怖し、讃えているのだという。


 次のターラント議会を進行する議長は穏健派が務めるそうなので、このままこっちに復讐だとか、やり返すだとか、そんな事は考えずにやり過ごしてほしい。


 ちなみに、巨人のアグハヴは報復とばかりに、魔術師を使って自分を洗脳したベルージャ王国の王都に、自分の頭くらいの大きさはある岩を担ぎ上げて、投げつけたらしい。

 岩山の直撃を受けて王宮は崩壊、その後、どうなったかという詳しいことは知らない。


 ただ、巨人のアグハヴは船で迎えに来た仲間と合流して、無事に巨人が住む大陸へと移動した。


「自分が異世界転生したとは思っていたんだけど!思ってたよりもガリバーで!物語の最後の部分に鉢合わせ出来たみたいで本当に楽しかったよー〜―!」


と言いながら帰って行ったが、結局、言っている意味が全く理解できなかったのは、人種の違いの所為だけではないと考えている。

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