第25話

 これは良くある乙女ゲーム系の物語。


 男爵の養女となった私、キアラは王立学院に通い、公爵家の嫡男であるセルジオ様と運命の出会いをする。二人はすぐさま恋に落ちたのだけれど、セルジオ様には家が決めた婚約者が居た。


 国内に大きな勢力を持つジョヴァネッリ侯爵家の令嬢であるオルネラ様との婚約を破棄にするには、婚約者であるオルネラ様に大きな瑕疵がついて、次期公爵夫人としては不適格だと知らしめる必要がある。


 オルネラ様は前世の記憶を持っているわけでもなく、傲慢不遜で意地悪で、自分が一番じゃないと納得がいかない超絶我が儘女だった。そのため、ヒロインである私はめちゃくちゃ虐められたわよ。


 普通だったら、悪役令嬢が前世の記憶を持っていて、ヒロイン絶対虐めません宣言をするものだから、仕方なくヒロインが自作自演をしたりするんだけど、そんなの全く必要がないくらいにエグい虐めが続き、階段落としもされたし、噴水に突き落とされたし、ゴロツキを雇って私を誘拐するなどフルコンボで攻撃をしてきたため、虐めの証拠集めには事かかなかったわ!


 だけど、通常、侯爵家の令嬢を大勢の前で婚約破棄した上で、男爵家の養女である私を自分の伴侶に選んでしまった場合、公爵家の信用は失墜してしまう事にもなってしまうの。


 そこで動いてくれたのがセルジオのパパで、ラファエラ様の婚約者であるロムルス殿下に毒を盛って体を弱らせて、将来的には結ばれる事はないのだから、娘の幸せを第一に考えてくれとロムルス殿下に詰め寄って、結果、ラファエラ様はロムルス様との婚約を破棄して、ピエトロ殿下との結婚をお決めになられたわけ。


 体調の優れない王に変わって、ピエトロ殿下はすぐに即位する事になったから、ラファエラ様はあっという間に王妃様になってしまわれたので、カルディナーレ公爵家を悪く言う貴族は誰も居なくなったってわけ。


 悪役令嬢は本来、修道院に行く予定だったんだけど、隠れキャラでもあるアルジェントロの伯爵令息と結婚して辺境へとお引っ越し。ラファエラ様に悪女は社交界から追放すべきと進言しておいたから、二度と王都には戻ってこないでしょう。


 隣国ベスプレームが滅びるのはストーリーとして決まっていたし、滅びたお影で公爵家は大金を手に入れられたけど、ターラント共和国の紐付きになっちゃったのよねぇ。まあ、私がターラントとの折衝は続けるつもりだし、夫も優しいし、夫との間に生まれた息子もすくすくと育ってくれたし、これがいわゆるハッピーエンドという奴でしょう。


 サブストーリーとしてターラント起点の物語があったとは思うけど、私は読んでいないから知らないし、第一作のヒロインが、ほぼほぼ、関わることはないわよね。 


「ああー〜―、こいつ、こいつ、こいつ、第一作のヒロインこいつだわー〜―」


 王宮の後ろに聳えるアペニン山脈を乗り越えてきた巨人は、外に連れ出された私を見下ろしながら、ニコニコ笑う。

 え?いつからこの物語は『○○の巨人』になったわけ?


「ターラントのイルマル・ヤルヴィがこいつを公爵夫人にするために、マスタンドレア王国に男爵令嬢として送り込んだってわけ。こいつを公爵夫人にするために、ロムルス王弟殿下は毒で殺されるし、ロムルスの婚約者は王妃として送り込まれる事になるし、そもそも、ラフアエラを王妃として送り込むために、ベスプレームは滅ぼされて、ピエトロ王の元婚約者であるオルソニア姫は行方不明になったってわけだよ」


 私の周囲を取り囲む近衛兵や、王宮前の広場に集まった貴族たちの騒めきが止まらない。


「ちょっと!巨人!あんたも前世の記憶を持っているってわけ?ストーリーの暴露なんて反則技もいいところじゃない!」


「ああ〜、やっぱりヒロインも前世の記憶もちだったわけー〜―?」


 巨人はガハハッと笑うと言い出した。


「だったら次のストーリーも知っているはずだよね?ベスプレームを滅ぼされたオルソニア姫はピエトロ王と再会し、ベルタランを産み落とす。次の主人公であるベルタランは祖国の復興を目指すんだけど、自分の国を滅したターラントは、ピエトロ王の治めるマスタンドレア王国をも手中に収めようと動き出す。第一作のヒロインである君は、ターラント兵を密かに招き入れ、王妃ラファエラはピエトロ国王暗殺に手を貸してくれるんだよね?ラファエラ王妃は今でもロムルス殿下を愛しているから、ピエトロ暗殺もノリノリで協力してくれるんだよねー〜」


「嘘よ!嘘よ!嘘よ!私は暗殺なんかに手など貸したりしていないわ!」


 公爵家が謀反の罪で捕まっているから、ラファエラ王妃も捕まっているのよね。私と同様、外に連れ出されていた王妃が半狂乱となって叫んでいる。


 騎士たちが一斉に辞儀をしたため、そちらの方を見ると、白金の髪を結い上げた、宝石のように美しい女性を愛しむようにエスコートしてきたピエトロ国王の姿を見つけて、ああ、バッドエンドだわと、悔しさで涙が溢れてきそうになった。


「ヒロインちゃん、君のおじさん達も、わざわざ連れて来てあげたんだよー〜―」


 巨人は指先にぶら下げていた動物を入れる檻を地面の上に下ろすと、そこに居るのはターラントで巨大な権力を持つイルマル・ヤルヴィと、その息子や孫たちで、


「もう終わったって事じゃなー〜い!」


呆然とする騎士たちを気にする事もなく、地面の上で大の字となって私は寝っ転がった。

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