第24話
ターラント共和国は、小さな国々が自国を守るために集まって形成された新興国であり、国の方針は議会によって決定する、国家元首や君主を持たない珍しい国だった。
ただし、建国から百年も経つと、弱小国から大国へ、他国を統治下に置くことで、より大きな権力を手に入れようと画策する人間が出てくるようになる。
元は書記官であったイルマル・ヤルヴィは、後に議会を仕切る事になる議長の娘と結婚した。有能な彼は義父にもっと大きな権力を手に入れないかと囁いた、ターラント共和国は周辺を小国に囲まれているような立地であった為、その気になれば簡単に他国を征服する事は可能である。
どんな小国であっても、権力争いは常に存在するため、その隙をついて相手の懐に人を入り込ませる。そうして、内側から徐々に、徐々に、国を崩壊させていくのがイルマルの常套手段である。
「なあ、イルマル・ヤルヴィ。お前自身がベスプレームまで出てくるという事は、我がマスタンドレア王国を滅ぼす気満々だったという事だよなあ?」
「そりゃあそうだろう、俺の国を滅ぼすのに使った兵力が3万、マスタンドレア王国滅亡のために用意した兵士が10万って、やる気の違いを感じるな〜」
「ねえ、この禿げたおじさん、どうすればいいの?放り投げて捨てるの?踏み潰すの?それとも食べる?僕は基本的には生肉嫌いなんだけど?」
五メートル級の巨人が両肩に乗せているのは、どちらも深紅の髪を持つ男で、一人は綺麗に髪を切り揃えられ、もう一人は無造作に長い髪の毛を一つに結んでいる。
双子のように似ている二人だが、瞳は一人が漆黒、もう一人は碧玉と、色合いが違う。
城を壊して侵入した大きな手に鷲掴みとされたイルマルは、禿げた頭を真っ赤にさせて怒りの声をあげた。
「その碧玉の瞳!ベスプレーム王家の象徴ではないか!お前がベスプレームを取り返すために動いていたベルタランだな!」
「ベルタラン、お前、有名だなぁ」
「まあね、兄上ほど有名ではないけれど、俺もそこそこには名を売っているつもりだよ」
「なっなっなっ・・・お前は・・・ヴァレリオ王子・・・」
七十歳を過ぎたイルマル・ヤルヴィはヴァレリオの顔を見上げると、パクパクと口を動かした後に、泡を吹いた後に失神した。
「有名人はこれだから」
「こいつ、俺の顔なんか知っていたかなぁ」
「わずか十四歳で古竜を倒した人間が何を言っているのかねぇ。アグハヴだって殴って失神させてしまうし、こんな人外、毒を賜って殺そうなんていう発想を持つ王妃様って奴の気がしれないね」
「本当だよー!本当にあの時は痛かったんだからねー〜―!」
巨人のアグハヴは文句を言ったが、そんな事を構う暇は私にはない。
「嫁が来ているみたいだ!アグハヴ、西に向かってくれるか?」
「タクシー代わりに使うんだから嫌になっちゃうよね」
「アグハブ、たくしーってなんだ?」
「なんでもない、前世の話だよ」
アルジェントロ領に現れた巨人は頭を叩いて失神させたが、洗脳を行った術者を殺したので、頭の中身はスッキリしたはずなのだ。だというのに、どうも巨人が言うのには、生まれる変わる前の記憶があるという。だからこそ、人間社会というものに対して物凄く興味があるという。
「だって!僕の住む大陸にはこんなちっちゃい人間住んでないからね!完全なるガリバー旅行記だよ!こんな状態になったら、まずは小さい人間に縄で捕獲される体験をしてみたいって思うじゃない?」
言っている意味が全然理解できないが、とにかく、ベルージャ王国の魔術師に捕まって散々な目に遭っていたらしい。
イルマル・ヤルヴィを檻の中に入れたアグハヴは、檻を城の尖塔の上に引っ掛けると、小さな人間を踏み潰さないようにと注意を払いながら歩き出す。
城から巨人の足で百歩ほど進んだ先にある平原地帯は沼となり、共和国の兵士たちが腰まで浸かって身動きが取れない状態となっていた。
土魔法を行使された敵の陣地を見下ろしていると、真っ赤な鳥型魔獣に跨ったピアがこちらの方へとやって来る。その後ろには弟であるエドアルドが座っていたため、物凄く驚いた。
「ピアー〜―!なんでエドアルドと一緒に居るんだよー〜―!」
「こいつ、目を離すとすぐにサボるからですよー!」
ピアが鳥の上から叫んでいる。かわいい。
「おい、あれが噂のお前の嫁か?」
「かわいいだろ、でも絶対にやらないよ?」
「いや、俺も嫁がいるからいらない。後ろは我らが弟か?」
「そうそう、王妃の溺愛デロデロの甘やかされ王子だったんだが、だいぶ絞られたみたいだな」
ピアの後の座るエドアルドは痣だらけになっていた、理由は想像もつかないが。
「ピア!こっちにおいで!魔鳥はベルタランが乗るから大丈夫だよー!」
「俺が魔鳥に乗るのかよ」
「肩でイチャつくのだけはやめて欲しいんだけど!」
「いいじゃないか!新婚なのに離れ離れになって寂しかったんだから!ちょっとくらいイチャイチャしたってバチは当たらないよ!」
「お前が魔鳥に乗れよ、ほら!弟よ!こっちにおいで!お兄ちゃんだよ!」
「誰だよお前―〜―!」
エドアルドが怯えたような顔でピアの背中に隠れた。
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