第19話
物心ついた時から、全方位から蔑まれ、屋敷から一歩外に出れば、兄の代わりとなった私はルカと呼ばれ、ピアという存在が消失する。
様々な嫌がらせは散々やられてきた私だけど、こうして正式に王子妃となろうが、王宮に入ろうが、家族の嫌がらせが止まることはないのだな。
「そうですか、ヴァレリオ様が巨人を倒すために、アルジェントロへと出発されたのですか・・・」
披露目の舞踏会は明日だというのに、今、夫である王子を移動ですか。
すげー〜―なー〜―。
王子妃になっても私は絶対に不幸になる宣言をしたというのに、将来は毒杯を賜って死ぬんだから、そういう事で納得してくれって言っているというのに、ここで、王子を連れ去るような事するー〜―?
これが7日前とかの話だったら、じゃあ、披露目の舞踏会も延期にするか〜とか出来るんでしょうけれども、前日じゃ無理よ。
そもそも、第一王子の伴侶となった人物の披露目の場でしたっけ?
あっ、夫が居なくても、晒し者になる予定の嫁がいれば良いんでしたっけ?
「クソーーーッ、毎日美味しいものを食べてのんべんだらりと幸せを満喫しているのが両親にバレたのか?お前、絶対に不幸になるって言っただろう的な?4年だか5年後には毒杯を賜るんだからで許してくれないのがアルジェントロだよな〜」
「ピア様、落ち着いて下さい。アルジェントロの間諜が離宮に入り込んで、貴女様の動向を調べているなんて事は絶対に有り得ないのですから、貴女様は、のんべんだらりで幸せを満喫していて良いのです!そもそも、一般市民に嫌がらせ目的で巨人の誘導は出来ません!」
ヴァレリオ様の側近であるステファン様は人差し指で、自分の眼鏡をクイッと押し上げると言い出した。
「災害級の巨人ということで、ヴァレリオ様が出ていくしかない状況となってしまいましたが、竜馬を使って行ったので、すぐに帰ってきますから!」
竜馬とは、トカゲ型魔獣と馬型魔獣をミックスした魔獣で、通常の馬の五倍のスピードで移動する事が出来るとかなんとか。
乗り手を選ぶ魔獣らしいんだけれど、私は乗った事が一度もない。
「ヴァレリオ様も、ピア様のドレス姿が見られないと言って、泣いて悔しがっておりました」
「そうでございましょうとも!」
隣で黙って話を聞いていた侍女筆頭のジャスミンが憤慨した。
「美しいドレスが仕立てられたというのに、そのドレスで着飾ったピア様の姿をヴァレリオ王子が見る事が出来ないどころか、ピア様はエスコートなしで、たった一人で晒し者になるという事でございましょう!」
本当にそれな。
披露目の場が終わってから、討伐依頼を出すって訳にはいかなかったんだろうか?
実家の嫌がらせと悪意が凄いよ、本当に。
「ステファン様がピア様のエスコートをする訳にはいかないんですか?」
侍女のマリーが涙を浮かべながら訴える。
実の所、婚約者が居る令嬢が一人で舞踏会に出るなんて事をしても、相当顰蹙をくらうというのに、王子妃の披露目の場で、王子妃がたった一人で舞踏会に参加?しかも、エスコートなし?
「私は伯爵家の次男なので、ピア様をエスコート出来る身分にないのです。そもそも、このような状況でピア様のエスコートをするというのなら、公爵家または王家の人間以外は許されないでしょう」
「陛下に頼むのはどうでしょうか?」
「無理無理無理無理無理!」
ジャスミンはたまにとんでもない事を言い出すな。
「本来、王妃をエスコートするはずの陛下が私をエスコートなんかしたら、王妃にその場で殺されてしまいますよ」
「ピア様の後見人としての立ち位置を表明できて良いと思ったのですが」
ジャスミンさーん!王様は私の後見人じゃないですよー!
「ピア嬢のエスコートは僕がするよ〜」
突然、離宮のサロンに聞いた事もない声が響き渡ったので、思わずギョッとして振り返る。すると、窓から入って来た様子の少年がニコニコと笑って言い出した。
「母上が今回の舞踏会は絶対に成功させなくちゃいけないと意気込んでいるので!僕がエスコートをすることで決まりました〜」
「エドアルド王子!」
赤金色の髪の毛に女性的な面立ちをした褐色の瞳の若者、エドアルド王子が水晶の離宮に現れたのだった。
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