第17話
「ヴァレリオの伴侶としてピア嬢を披露目する舞踏会を王妃である其方が仕切りたい?」
突然、執務室へとやってきた王妃ラファエラを見上げた、この国の王である私、ピエトロは、思わず口元に失笑を浮かべてしまう。
「王妃が王家主催の舞踏会を差配するのは当たり前の事ではございませんか?」
ラファエラは銀色の髪を高々と結いあげた美しい女ではあるが、公爵家で蝶よ花よと育てられてきた箱入りに間違いなく、王妃となってからも嫌なこと一つせず、楽しく過ごしてきたような女だった。
今、王都では我が王国の第一王子とその伴侶となったピア嬢をモデルとした舞台が大盛況となっているため、ピア嬢の人気はうなぎ登りとなっている。そこに来て、初めて王家に嫁入りした令嬢を招いた茶会で、堂々と毒が入った紅茶を用意したわけだから、王妃であるラファエラの権威は失墜傾向にある。
王妃派と名乗る女たちは、家の為、自分の権力を保持するためにラファエラに笑顔で擦り寄るような事はするだろうが、物語のように身分差を乗り越えて結ばれた第一王子とピアに対して心躍らせているのは間違いなく、二人の恋路を邪魔し、最後には毒を賜ろうとする王妃を悪役と見立てて、心の中で憤慨している者も数多く存在する。
自分の名誉を挽回するために披露目の場を自ら差配して、ヴァレリオとピア嬢に対して慈悲を授けるパフォーマンスをしようというところなのだろうが、その魂胆が見え見えすぎるところが箱入りならではといったところか。
「今まで嫌ってきたヴァレリオと、わざわざ呼び出して毒を盛ったピア嬢の披露目の場を、王妃がわざわざ表に出て差配する意味がわからないのだが」
「私が毒を盛ったわけじゃありません!侍女が私の思いを慮って勝手にやった事なのです!」
紅茶に毒を盛った侍女はすぐに見つかったが、遺書を残して自害していた。
なんでも、王妃が嫌うピア嬢を排除し、主人の憂いを取り去ろうとはからった等と遺書には書かれていたのだが、その裏には別の人間が絡んでいるところまでは押さえている。
「成人したらエドアルドを王位につけ、病と称してヴァレリオとピアは幽閉し、毒杯を賜って殺すつもりなのであろう?」
「誰がそんな事を言ったのですか!」
「この王宮に勤める全ての者が言っている」
唖然とした表情を浮かべる王妃を見つめながら、私は笑顔を浮かべた。
「身分差を超え、様々な障害を越えて結ばれた二人は、結局、王妃の差配によって悲劇が訪れる。昨今、流行の悲恋物の結末を結局は迎えることになるのだろう」
「嘘よ!嘘!嘘です!」
「何故、嘘などと言う?エドアルドを王位に就けるという事はそのような結末を迎える事になるのは分かりきった事実だろうに」
顔を青ざめさせて固まる王妃を笑顔で見つめた。
「生まれた時から私に良く似たヴァレリオは憎悪の対象であったのだろう?であるからして、弟ロムルスに良く似たエドアルドを、王妃はなりふり構わずに王位に就けようとしている。自分の腹を痛めた子供だろうが、なんだろうが、私に似ているからという理由ひとつで殺すのだろう?」
この女は、エドアルドを次の王に据える事にした理由に私が気付いていないとでも思っていたのだろうか?
「ああ、息子だけでなく息子の伴侶も殺すのだったな。それで?将来は毒を与える予定の二人の披露目の場を王妃であるお前が差配すると?」
「え・・ええ・・私は・・ヴァレリオの母親ですもの・・・」
「だったら王妃、お前が主導して準備をすればいい。ヴァレリオは王妃を配慮して、まともな結婚の儀も、披露の宴も、民への披露目のためのパレードすらしていないのだからな。どれほど金がかかろうとも構わない。だが、他国からの要人は一人たりとも招待はするな」
真っ青な顔でこちらを見る王妃に釘を刺す。
「他国からの要人を招待したらお前を殺す、わかったな?」
「しょ・・承知いたしました・・・」
ふらふらした足取りで、執務室から出ていく王妃を見送りながら、側近の一人を呼んで指示を出した。
敵に踊らされている王妃には、我が国の為にも、華麗に踊ってもらおうじゃないか。
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