第16話

カルディナーレ公爵家の娘であった私、ラファエラは、兄の婚約者だったオルネラが大嫌い。傲慢不遜で我が儘なオルネラは、兄を独占したくていつも付き纏っていた為に、執拗に妹である私を排除しようとしていたのだった。


 公爵家の娘である私は、年齢的にも近い、この国の第二王子であるロムルス様と婚約をする予定でいた。ロムルス様は女性的な面立ちをした優しい性格の方で、いつも私に寄り添い、可憐な花束をプレゼントしてくれるような人。


 ただ、生まれつき体が弱く、成人出来るかどうかもあやしいと周囲の人々が噂するのも知っていた。

 ロムルス様には五歳年上の兄君がおり、隣国の王女が婚約者として決められていた。小国とはいえ、宝石を複数産出する鉱山を持つ国だった為、婚姻による結び付きを強固なものにしようと計らい決められた結婚だった。


 その小国がターラント共和国という新興の国に滅ぼされ、姫も戦争のどさくさに紛れて行方知れずとなってしまった為に、ロムルス様の兄君は、新たな結婚相手を選ばねければならない事になった。


「ラファエラ、君が兄上の伴侶となってくれないか?」


 その頃には病床から起き上がることも出来なくなっていたロムルス様は、私の手を握りながら訴えた。


「君の父君もそれを望んでいる、僕が王位を継げれば問題なかったんだけど、それもまた夢物語に過ぎない」

 ロムルス様は寂しそうな笑みを浮かべて私を見つめた。


「君は優秀だし、私の妃になるために教育も済んでいる。君ならきっと、兄を支える事が出来るから」

 青白い顔色をした美しいひとは、自分の兄に嫁ぐようにと、絶望に突き落とすような事を平気で言ったのだった。


 ロムルス様が成人を迎えられずにお亡くなりになるようだったら、私は修道院に入り、神に祈りながらロムルス様の冥福を祈り続ける道を選びたかった。だけど、兄様が、


「オルネラ・ジョヴァネッリに告ぐ、今まで執拗にキアラを虐め、傷つけてきた貴様は公爵家に相応しいとは思えない。貴様との婚約はここに破棄を宣言し!私はキアラを我が伴侶とする事を宣言する!」


舞踏会の会場で、男爵家の令嬢を抱きしめながら、そのような馬鹿みたいな宣言をするから、私は落ちたカルディナーレ公爵家の品格を保つために、ピエトロ王太子殿下の元へ輿入れしなければならなくなってしまったのだ。


 ヴァレリオが生まれた時、嬉しさよりも悔しさの方が強かった。

「球のような世継ぎの王子にございますよ!ピエトロ陛下にそっくり!」

 赤子だというのに、夫に良く似た我が子の姿を見つめ、喜びよりも嫌悪と憎悪が溢れ出す。


 私はこんな子は産みたくなかった。

 私はロムルス様の子を産みたかったのよ。


 そうしてロムルス様が病で亡くなった3年後、生まれた子供はロムルス様そっくりな子供で、

「ああ・・ようやっと出会えたのね」

涙を流しながら、私はエドアルドと名付けられた我が子を抱きしめた。


 ヴァレリオを産んだ5年後に生まれたエドアルドは、ロムルス様の生まれ変わりのように気性も優しく、朗らかな笑みを浮かべる穏やかな子だった。


 兄との年齢差もロムルス様と同じで、私はこの子が決して病などで死なないようにして、この子こそ、次の王になれるようにしようと決意した。これでロムルス様の無念を晴らす事にもなるのだし、きっとあの方も天国から支えてくれるだろう。


 私の父である公爵も言ってくださった。

「なるほど、ヴァレリオ殿下は色々と問題もあるのは間違いようのない事実。お前の言う通り、次の王はエドアルド殿下が就けるように私も応援しよう」

 私のお友達たちも、

「ええ、ええ、ヴァレリオ様ではなく、次の王位にはエドアルド様が就くべきだと私も思いますわ!エドアルド様を親族一同、応援致しますとも!」

と、笑顔を浮かべて言ってくれた。


 今までみんな、私を応援してくれたのに、突然、温かい視線が微妙なものへと変わり出す。そして時には、冷たい眼差しも混ざり出す。


「実の子供に毒杯などまさかとは思いましたけれど、真実、行う予定であったとは」


「私はエドアルド様が王位に就いた暁には、ヴァレリオ様が補佐に就くのかと。あの方がいさえすれば王国に問題など起こりませんもの。そのように考えていたのだけど」


「あまりにも甘過ぎる考えではないかしら?五歳も年齢が上、しかも何の瑕疵もないヴァレリオ様を退けてエドアルド様が王位に就くのよ?王位を退いたから臣籍降下とか、補佐に就くとか?そんな事になったら国が乱れる事になりますもの。だから、病からの毒杯を賜っての死亡、その筋書きで殿下も了承されているのでしょう?」


「私、グラジオラスを君にという舞台は何度も見ましたのよ?最近は悲恋が流行でしたけど、久しぶりのハッピーエンドでとても心が満たされましたの。ピンク色のグラジオラスの花を捧げた殿下のお気持ち、ひたむきな愛を捧げる殿下のお気持ちに涙がこぼれ落ちたのに、結局は悲恋に終わりますのね。ヴァレリオ殿下がピエトロ陛下にお顔が似ていただけという理由で」


「そうですわ、ヴァレリオ殿下がロムルス王弟殿下にお顔が似ていらっしゃったら、こんな悲劇は起こらなかったのでしょうね」


「そもそもヴァレリオ様がロムルス様に似ていたら、ピア様との結婚などという事にはならなかったのじゃないかしら?」


「そうよね〜王妃様がまともな方だったら、ヴァレリオ様は、近隣諸国の王女か高位貴族の令嬢をすでに娶っているはずだもの。王妃様はピエトロ陛下のような男らしい顔立ちはお好みではないかもしれないけれど、私は男らしい殿方の方が好みよ」


「まあ、私も!」


「私はピア様が今のところ最推しですわ!毒を目の前に用意されても、あのような毅然とした態度を取られるお姿、その凛々しさ、麗しさといったらもう!」


「それはそうよ!あれは凄かったですわよね!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る