第14話

エドアルド第二王子が成人すれば王位に就くことが出来るため、邪魔者となるヴァレリオ第一王子は病かなんかを理由に幽閉からの毒杯。妃も一緒に幽閉、毒杯をする事になるだろうから、それまでの間は、王宮でのんびりするようにと言われている私です。


 私たちの結婚の儀は陛下の御名の元、秘密裏に行われたため、大臣や関係各所への報告も完全に事後報告。主要な貴族は次の王はエドアルド第二王子だろうと決めてかかっている節があったんだけど、それだけ軽視していたヴァレリオ王子に完全に無視された形となった為、ざわめきが止まらない状態になっているらしい。


 結婚の披露もパレードもやらない第一王子に対して物申す人も多いようだけど、

「ラファエラ王妃の心情を考えれば、結婚の儀を大々的に行うなんて出来ませんよ」

そんな王子の一言で周りの人間は黙り込んだ。


 そもそも、エドアルド王子を王位に就ける為に、散々邪魔をして来たのがラファエラ王妃である。結局、ヴァレリオ王子は高位の貴族令嬢を娶ることが出来なかったわけだし、ここで溜飲を下げて欲しいという意見も多いにある。


 他国から見えれば、我が国の第一王子が未だに結婚もせず、婚約者が居ないとなれば奇異にしか映らない。対外的な問題に発展する前に、誰でも良いから伴侶を見つけて欲しいと考える者も多かったらしい。


 一応、今度行われる王家主催の舞踏会を披露目の場とするらしい。

 そこで私こと、第一王子の伴侶ピアは貴族たちの見せ物になるわけだ。


 ヴァレリオ王子の父となるピエトロ国王は生涯、王妃のみを愛しているため、子供はヴァレリオ王子とエドアルド王子の二人しかいない。ヴァレリオ王子はラファエラ妃から生まれているけれど、彼女は自分の息子の事が嫌い。


 だけど、自分に黙って結婚をしたという事には猛烈に腹を立てているのも間違いなく、

「ピア様!ついに王妃様からお茶会の招待状が届いてしまいました!しかも今日の午後、開催だそうです!」

と、侍女のマリーに声をかけられて、大きなため息を吐き出した。


「今日の午後?」

 もうすぐお昼ご飯を食べようかな〜みたいな気の抜けた時間を狙って送りつけてくる所に敵の才智を感じます。


「お茶会ってお土産必須なんでしたっけ?」

「王都で人気の菓子はすでにご用意できております」

 できる筆頭侍女ジャスミンはそう答えて女性騎士が着るような服を持ってくると、

「本日は、これで戦うことに致しましょう」

と、にっこりと笑いながら言い出した。


 私は全然知らなかったんだけど、メルキュール歌劇団という有名どころが王都の劇場で始めた演目が物凄い注目を浴びているらしい。


 何でも、魔獣に襲われて怪我をした兄に変わって王宮に出仕したヒロインが、男装をしながら何とか日々を送る中、王子に女である事がバレてしまってヒロインは窮地に陥る事になるそうで、まあ、なんやかんや色々とありながら、王子に助けられるヒロインが絆されて、最後は結婚、ハッピーエンドという事になるそうだ。


「ピア様!完全に劇中のエレオノーラ様ですよ!エレオノーラ様って呼んでいいですか!」

 侍女のマリーの熱が凄い。

「エレオノーラ様だわ!」

「エレオノーラ様よ!」

 支度を手伝ってくれた侍女たちの熱も凄い。


 鏡の前に立つのは、虹色の髪をした女騎士そのものの私、要するに兄であるルカと入れ替わる時の私を見つめる事になったのだけれども、違和感を感じずにはいられない。


「ジャスミン、胸は晒しで潰して、お尻が大きく見えないぶかぶかズボンにしなくても大丈夫なのだろうか?」

「本気で男装をしようというわけではございませんからね。まさしく今のピア様は、女騎士の衣装に身を包んでいるのです」

 王妃のお茶会に行くのに何故?これも新手の嫌がらせか何かなのだろうか?


「ピア様は結婚してヴァレリオ様の妻となってはいますが、舞踏会までは正式に公表されたわけではありません。王国軍の武官から殿下付きの秘書官、しかも護衛も兼ねているという説明がされているので、騎士服が正式な衣装と言っても誰も文句は言えません」


 嘘だろー〜―。文句言いまくりになるだろうに勝手な事を言ってー〜―。


「舞台『グラジオラスを君に』では、ヒロインは常に男装をしているので、騎士服をお召しいただいているのです。髪の毛が短いピア様に男装は丁度良いですよね」


 騎士服なのに腰が引きしまり、肩幅加工なし。胸の膨らみもある為、とっても違和感を感じてしまう。


 私がモデルの劇の主人公に、私の方が寄せて王妃のお茶会に出たら、どんな事になるのか全く想像できない。だけどきっと、何を着たところで絶対に文句を言われるのだろうからどうでも良いかと思う事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る