第7話

アルジェントロに居た時の私は、世間体を気にした父に人間関係を制限されているようなところがあったため、世の中には冒険者なるものが居ることは知っていたものの、領を出るまでは冒険者自体を実際に見ることは一度としてなかった。


「な・・な・・な・・・」


 領を出てからも、女である事がバレては困るため、ソロで討伐依頼を受けていたし、実際の冒険者がどんなものかということも全く知らない。


「な・・な・・な・・・」


 道ゆく冒険者に挨拶をする程度だし、一緒に討伐にも行ったことがない。冒険者というものはギルドでも見かけるけど、全く生態がよくわからない、魔物を倒して金を稼ぐ人という括りだったのだけれども。


「なんて事をしてくれるんですかーーーーーー!」


 私は初対面の冒険者らしき男に怒鳴り声を浴びせていた。


「もっと殺し方があったでしょう!首スパンって!首スパンって!」


 3メートル級のサラマンダー(土龍に進化途中)が首を完全に切断された状態で転がっている。


「嘘でしょう!嘘でしょう!嘘でしょう!嘘でしょう!」

 誰かこれは夢だと言ってくれ!  


 トカゲ型から竜型に進化をすると、その喉元に特殊な鱗が現れる。逆さ鱗と言われる一枚の鱗は魔力を溜め込む習性があるため、他の鱗よりも百倍の値段で取引される。


 切断されたサラマンダーの体を手を血塗れにしながら引っ張り上げて、その断面に逆さ鱗が残っていないか探してみたけどない。全然ない。


「逆鱗だったらこっちにあったよ〜」


 頭の方を引っ張り上げていた男が、大きな鱗を掲げてニコニコ笑う。


「あった!良かった!首と一緒に切断されたかと思いましたよ!貴方!絶対に首を切断せずに倒せましたよね?攻撃型光魔法ですか?あれだったら槍型にすれば、損傷も少なく回収する事が出来るじゃないですか!」


「魔力操作が面倒だし」

「ばか――――――っ!」


 後方五メートル地点で大木がバッサリと切り落とされている。

 主(ぬし)級を殺した際に、やったのに違いない。


「この木をこの長さで斬ります?もっと長かったら材木として高く売れるレベルですよ!それが薪レベルって!もったいないじゃないですか!」

「えーーーー!守銭奴すぎないかー〜?」

「お金は大事です!」

「お金が大事なのは知っているけど」


 かなりの凄腕なのは間違い無いので、きっとお金に困る事のない冒険者なのだろう。

 周りに誰も居ないようなので、ソロの冒険者だろうか?

 冒険者って集団で依頼を受けることが多いそうなので、私、自分以外のソロの冒険者って初めてみました。


「あの、冒険者の方ですよね?」

「冒険者?」

 彼は燃えるような赤い髪をバリバリとかきむしった。

「ああ〜、ランク的には最上位?とか、過去に言われたことがあるけどねぇ」

 白金級?マジですか?

「私、まだ銅級なんですけど」

「その腕だったら、すぐに階級駆け上っちゃうでしょう」


 ははっははは、みたいな感じで笑っているんですけど、この人も主級狙いでロックガーデンを登って来たってことになるんですよね。


「クソーーーッ!鱗が必要だったのにー〜―!」


 思わず唸りたくもなりますよ。別に倒せなかったわけじゃないですからね?様子見をしていただけですよ。そこを横から掻っ攫われるなんて・・・


「ついてない・・・」

「ついてなくないよ、逆鱗ついていたって」

「私は普通の鱗が欲しかっただけなのに」

「じゃああげるよ」


 白金級は非常に気前が良かった。


「僕はこの逆鱗だけあればいいから、あとは全部君にあげるよ」

「え?本当ですか?」

 私は転がる3メートル級を見下ろしていると、

「鱗だけでなく体も持って行っていいよ〜、もしかして頭も欲しい?牙はお金になるもんね?それじゃあ全部持って行っちゃおうか」

あっという間に3メートル級サラマンダーを肩からぶら下げたバックに入れてしまった。


「え?異空間収納?」

「そうそう!この逆鱗をあげようかなって思っている奴が作ってくれたんだ」

「マジですか?」

 白金級ってすごい!


「街まで持って行ってあげるから、その方が楽でしょ?」

「ありがとうございます!担いで帰ったら、何回、カツアゲを食らう事になるか気が気じゃなかったんです!」

「女の子なのに、3メートル級を担いで帰るつもりだったわけ?」

「は?」


夜の闇のような漆黒の瞳が値踏みするように私を見た。

「ルカ・アルジェントロさん、君に会いたくて、ここまで来たんだけど」

 私の偽りの名前まで知っている。

「あ!そういえば自己紹介がまだだったね!」


まるで夜空に浮かぶ太陽のような男は、その美しい顔に笑みを浮かべると、

「私はヴァレリオ・マスタンドレア、この国の第一王子、よろしくね!」

と自己紹介しながら握手をしてきた。

「は?」


 漆黒の竜型の皮を使ったズボンにブーツ、豹型魔獣の皮で作った上着を羽織っている姿は冒険者そのものだけど、第一王子?この国の第一王子?


「な・・な・・な・・な・・・」


 なんで第一王子が目の前に居るわけ?

 そして、なんで私が女だってバレているわけ?

 もしかして、不審者情報がすでに通報されていて、王子自ら確認に来たとか?


「君って『な』ばっかり言って、とってもチャーミングだね!」


 言っている意味がわからない。

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