第5話
私のこれまでの人生、魔獣を討伐ばかりして過ごしていた事になるのだけれど、この魔獣、意外に高額な値段で取引されるという事実を王都で知った。
「まあ!ルカ様!ストゥルスの羽を持ってきてくださったのね!パバウォンの羽もあるじゃないですか!まあ!まあ!まあ!」
ストゥルスはダチョウ型魔獣、パバウォンは孔雀型魔獣の名前で、どちらも標高の高い山に住んでおり、どちらも尾羽が美しい肉食魔獣だ。
どちらも魔獣の割には肉も柔らかくて美味しいのが特徴で、この美しい尾羽は羽飾りがついた帽子が流行している王都ではかなり高額で取引されている。
今、私の目の前に居るのはオートクチュールの店を何店舗も抱えているソフィアさんで、王都では一目置かれるデザイナーさんでもあるらしい。
王都に到着した私は、王宮での面接、出仕の手続きを済ませた後は、冒険者ギルドで働いていたため、仕事が休みの日には魔獣の討伐も続けていている。
ソフィアさんを紹介してくれたのがギルド長のマルコさんで、最近はソフィアさんからは個人的な依頼も受けるようになっていた。
「帰って来たばかりなんじゃない?お茶でも飲んで行ってちょうだいよ」
ソフィアさんは三十歳後半の栗色の髪を結い上げた知的な面立ちをした女性で、元々は子爵家の四女だったソフィアさんが、ある事がきっかけでスポンサーを獲得し、店を構えるようになったという話は本人から聞いている。
「ルカ様、王宮への出仕が始まったのでしょう?どう?うまくやれそう?」
彼女が近しい人を招き入れるモダンなつくりの応接室で、ソファに腰をかけた私に、紅茶を淹れながらソフィアさんは問いかけてきた。
「今のところ書類整理が主な仕事になるので、大変という事は全くないです」
「早速、魔獣の討伐に行って来たのでしょう?」
「そうですね」
兄が逃げ出してしまった為、私が王都に来る羽目になってしまったけど、今のところ、私が女だと気付かれることはない。
結界石に守られている王都でも、近郊になれば魔獣が出没するなどという事も稀にあり、この前は私も討伐の手伝いに行かされたのだった。
「魔獣と言ってもウーリーというネズミ型魔獣だったので、それほど大変ではありませんでしたけど」
「五千匹とか八千匹とか、現れたって聞いているけれど?」
ソフィアさんは富裕層の家、貴族の家へとドレス作成のために出入りする事も多いため、いわゆる情報通という奴なのだ。
「ウーリーは梨の月に子供を産んで、葡萄の月に住処を移動する事が多いんです。今年は相当繁殖したみたいですね」
人を全く恐れないのが特徴の肉食魔獣であり、人間の赤子を捕食することがある為、注意が必要となる。
「八千匹を繁殖一つでまとめちゃうなんて大胆ね、すごく活躍したと聞いているけれど?」
「そうですかね?」
私は土魔法を広範囲に広げる事ができるため、バロッファ同様、1箇所に追い込んで集めてくれれば、私の土魔法で窒息させてしまうので、全滅させるのは問題ない。
特にネズミ型魔獣は使える素材もないので、手間をかけずに土に埋めてしまえるから楽だ。
「そんなルカ様にお願いがあるのだけど」
「発注依頼ですか?」
「そうなの、サラマンダーの鱗が必要なのよ」
「サラマンダーですか?」
サラマンダーとは炎の力を宿したトカゲ型魔獣のことで、煌めく鱗は女性の宝飾品として利用されている事を知っている。
「2・5センチサイズくらいですかね?」
「8センチサイズの鱗が欲しいのよ」
鱗一枚8センチサイズというと、主レベルという事になるんだけど。
「最近、ロックガーデンに出現したという情報があって、ギルドにも討伐依頼が出ているのよ」
「ギルドの依頼も受けて、ソフィアさんの依頼も受けるという形ですか?」
「そうよ、二度美味しい依頼になると思うのだけど」
ソフィアさんの提示した金額は予想以上に高額だったため、私は二つ返事で受けることにした。
「早速明日、ロックガーデンに行ってみますね」
王宮で私が勤める職場は5日働いて2日休めるという、ギルドの人間が言うところのホワイトな待遇というやつなので、私は今日、明日と、魔獣を殺してお金を稼ぐつもりでいたのでちょうどいいです。
「何時くらいに行くの?」
「そうですね、日が登る前には現場に行こうと思っています」
サラマンダーの主レベルといえば金になるため、彼らの活動時間となる日中には多くの冒険者がロックガーデンの岩場を漁る事になるだろう。そこに混ざりたくはないので、あえて活動時間ではない夜明け頃を私は狙っていくつもりだ。
「どうします?現物まるまる持って来ましょうか?それとも、それほど急ぎじゃないようだったら、加工した後の鱗を持って来ますけど?」
「加工後でお願いします」
ソフィアさんはニッコリと笑うと、
「サラマンダーってチョロチョロして捕まえづらいって聞いたことがあるんだけど、もう、明日には用意できるつもりでいるのね?」
と、小首を傾げながら問いかける。
「まあ、一応、魔獣討伐のプロ・・みたいなものですから」
「魔獣討伐のプロ?」
「みたいなものです」
正直言って、領地では団体行動だったし、ソロ活動しているプロを間近で見たことがないので、プロがどういったものかわからないんですけどね。
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