第4話
「あんた!男前なのになんて頭をしているんだい!そのどうしようもない髪の毛を切ってやるから店に入んなよ!」
「実は染めてもらいたいんですけど・・・」
「そんなヘンテコな髪色じゃ、ここらじゃ目立って仕方ないでしょうに!いいよ!いいよ!おばちゃんが染めてあげるよ!」
父が治める領を出発して気がついた事は、魔獣狩りに特化した私は金を稼ぐ能力が高いということ。
ただ、金を稼ぐのは良いんだけど、このやたらと目立つ虹色の髪の毛が悪い奴らを引き寄せるようで、今までカツアゲを食らったのは8回。負けることはないが、倒すのも面倒くさいので、せっかくだからここで髪の毛は染めてしまおうと決意した。
「ほら!男前になっただろう!」
田舎町の小さな床屋で働くおばあさんは、にこにこ顔で私の顔を鏡越しに覗き込んでいる。染め粉は黒しかないと言われたけれど、虹色ではないだけでかなり地味な見た目になったように思える。
金色の瞳も絡まれる要素となるため、露天商から度がつかないメガネを購入してかけてみるとあら不思議。
「世間体が悪いなんて言葉は気にせずに、最初から髪を染めて、メガネをかけておけば良かったな・・・」
個性が埋没して、絶対に誰も私だとは気が付かないだろうと自信を持って答えられるようになった気がする。
ついでとばかりにアルジェントロ領の騎士服を脱いで市井の服に着替えると、あらあら不思議。
「完全に別人だな」
腰まで伸ばした髪の毛はなくなり、女の割には背が高いところも功を奏しているのは間違いない。晒しを巻いて胸を潰し、肩幅の広い上着を着れば、どこからどう見ても完全に男にしか見えない。
「この調子でルカとして面接を受けて武官として採用されれば良いわけだから、一ヶ月後に手紙が来たら、そのまま出奔して逃げ出そう」
それまでは男として王宮に仕える!
どうせ流行病として死亡届を出すんだろうから、領地に戻らずに行方不明となったって何の問題もないだろう。というわけで、私は、自分が死ぬまでの期間を指折り数えて待つことにしたのだった。
◇◇◇
毎年、葡萄の月になると、王都マテーラには沢山の若者が訪れることになる。
各種学校、学園がはじまるのが葡萄の月という事もあるのだが、成人を迎えた貴族が王宮に出仕するために王都へとやってくるのも葡萄の月となるため、王都の人口が増えるのもこの季節という事になる。
書類をめくりあげていると、
「ヴァレリオ様、少し休憩されてはいかがですか?」
と言って、側近のステファンが目の前に珈琲を差し出してきた。
「うん・・そうだな・・・」
指先で眉間を揉みながら顔を上げると、何やら外が騒々しいことに気がついた。
どうやら王立学園の新入生が、見学のために王宮を訪れているらしい。
「そうか、もう葡萄の月だものなぁ」
一年が過ぎるのが早過ぎる、そんな事に思いを馳せながら珈琲に口をつけた。
「今年は出仕した貴族の跡取りは二十八人だったか?面白い人材はいるのかな?」
「王妃様はエドアルド様の派閥作りに夢中で、貴方様の周りには人材ゼロですものね?今年は優秀な文官を引っ掛ける事が出来ればよいのですけれどもねぇ」
私には五歳年齢が離れている弟が居るのだが、母は弟のエドアルドの方に王位を継承させたいらしい。一応は私も母から産まれているのだが、母としては、私は嫌悪の対象以外の何者でもないらしい。
「婚約者が出来ても、出来ても、呪い殺される。殿下は呪いの王子として有名なのですから、そろそろイメージアップを図りたいところですね」
「呪い殺されたことはないのだがな」
一応、この国の第一王子ということで、私には十歳の時を皮切りにして、婚約者というものが連れて来られる事になったのだが、次から次へと、暴漢に襲われかけたり、誘拐されかけたり、毒を盛られかけたりして、
「私では到底、殿下の婚約者にはふさわしくありません!」
と言って、婚約を辞退、または白紙にして私の元から去っていくのだった。
全員、ことごとく未遂で終わっているのだが、婚約者があまりに怯え、恐怖に慄きながら辞退するため、いつの間にか、私と婚約すると呪われるという噂が実しやかに囁かれるようになったわけだ。
私の地位を磐石にしてしまったら、後々エドアルドが王位を継承するのに差し障りとなるという事で、母が邪魔して邪魔して邪魔しまくった結果となるわけで、
「エドアルドに王位を継承させてください!私は継承権を放棄いたしましょう!」
と、父と母に面と向かって訴えたところ、
「責任放棄も甚だしい!」
と、父に怒鳴られる結果となったのだった。
エドアルドは優しい性分なのだが、それゆえに優柔不断、他人に流されやすい性格をしており、父としても不安が大きいようなのだが、
「王位継承はエドアルドに!」
と、母が言って聞かないらしい。
そんなわけで、いまだに王太子すら決めていない我が国は他国から笑い物となっているのだが、自国の民が笑い物にしないのなら、王も王妃もそれはそれで良いらしい。
すでに私は21歳となり、陛下が王位を継いだ年齢となったのだが、未だに王太子にすらなっていない。弟は現在16歳、彼が使い物になるかどうか判断するまでに、後、何年私は待たなければならないのだろうか。
そもそも、弟の方が王位を継ぐのなら私は不要、最悪の場合は毒杯を賜る未来もあるため、私の婚約者になろうという令嬢は現在、消失してしまった。
見渡す限り、誰も居ないのが私の現状でもある。
王位を弟が継承するのなら、私には何のうまみもない為、側近候補として名前を挙げる貴族すら居ない始末。こうなったら自分で探しに行けという事になるんだからどうしようもない。
「とりあえず面白い新人はいましたよ?」
ステファンは瞳をキラキラさせながら私の方を見ると、
「魔獣討伐のプロなんですけどね」
と、意味不明な事を言い出した。
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