第47話 ダンジョン清掃 異変④
「やはり俺の見込んだ男……! まるで無人の野を行くがごとく……!」
そんな声を背に受けながら、シェイクは大ムカデの大群を切り裂いていく。
その群れの中に埋もれているマインドフレイヤ―の亜種らしき怪物、リリィ・キャッスルを取り込んでいる巨人。
シェイクはそちらに剣先を向けた。
巨人の肋骨の檻からリリィの声がする。
「やめてくれ! お前の本当の敵はあたしじゃねーはずだ!」
「……じゃあ誰だと言うんだ?」
「決まってる! そこのココアって女だろ! そいつがお前の敵のはずだ! さっきまでそいつを殺そうとしてたじゃねーか!」
「……まったく迂闊だった。戦闘中にココアがあんな不自然なことを言い出すわけがないってのに……まんまとお前に引っ掛けられていたってわけだ」
当のココアは当惑した声。
「なんの話? わたし、シェイク君になにか言った?」
「……俺が錯覚していただけだ。こいつがマインドフレイヤ―の亜種なら……人の精神に傷を負わせて操ろうとしてくるのは予想できて当然だったのにな」
「えっと、シェイク君はこいつに幻覚を見せられてってこと? ……じゃあ、幻覚の中のわたし、シェイク君にどれだけ酷いこと言ったの? なんか……さっき殺されそうな雰囲気だったんだけど……?」
「気にするな。全部出鱈目だったんだから。そして、幻覚はもう解けた。偶然大ムカデの暴走にこのマインドフレイヤ―が巻き込まれてくれたおかげでな」
見れば、大ムカデ達に追われてここまで逃げてきたらしい男女の訓練生のペアがいる。
先程、シェイク達と一緒に巨大なGの巣を潰したカシス星2つ訓練生とホームレス星4つ訓練生だ。
それぞれ、口を開き出す。
「もう最悪なんだけど!? あんたらと別れてから碌なことないんだけど!」
「どうも俺達を狙って大ムカデ達が集まってくるようで、たまらずここまで逃げてきたのだが……ここでシェイクと会えるとは、やはり運命だな! 俺達は引きつけ合うものがあるんだ、シェイク!」
「目を♡型にするな。……大ムカデはGをエサにしている。Gの巣を潰したときによっぽど匂いが染みついたんだろう」
その言葉を聞いて、プリンが鼻を引くつかせる。
「……あっ……」
「あっ、ってなによ!? あんたらだって一緒にG塗れになったでしょ!?」
「あの後、清めの魔法で少しは綺麗にしたはずなんだけど、たまたま効きが悪かったのかな?」
激高するカシスに、ココアが肩を竦める。
シェイクは言葉を続けた。
「なにが幸いするかわからんな、そのおかげで俺は幻覚から目覚めることができた。こいつの出鱈目にもう惑わされることはない」
と、マインドフレイヤ―亜種はリリィの声で嘲笑う。
「出鱈目じゃねーよ。お前が幻覚の中で聞いた声はお前の声だ。お前の本心、隠している恐れ、憎しみ、妬み、欲望。お前が人前に出したくない汚ねー部分。お前は本当はそういう奴なんだよ!」
「黙れ」
「プリン、シェイクに聞いてみな? 幻覚の中でなにを見たの? ってな! あたしも知りたいね! あらゆる情報を収集し、独占するが我が使命。シェイク、幻覚の中でなにを聞いた? それはお前の大切な仲間達にも教えてやれないことなのか?」
「! シェイク君! マインドフレイヤ―の言葉に耳を傾けないで! そいつらのいつものやり口だよ!」
ココアが鋭く言ったその時。
既にマインドフレイヤ―の触手頭は切り飛ばされていた。
跳躍したシェイクがマインドフレイヤ―と交錯した一瞬。
それで終わりだった。
「黙れと言った」
シェイクは未だ蠢く触手頭に右足を乗せて言う。
それから、剣を深くその頭の奥まで突き刺した。
◆
それから先は後始末だった。
大ムカデ達をその場の皆で掃討。
それからマインドフレイヤ―亜種の肋骨の中からリリィ・キャッスルを助け出す。
驚いたことに、リリィはまだ生きていた。
頭蓋を触手で穿孔され、脳をいじくりまわされてもまだ。
ココアが癒しの術を施したことで命は永らえた。
だが、これからどんな後遺症が残るかはわからない。
それはアーちゃんと呼ばれるアース・バックドア星3つ訓練生についても同様だ。
ダンジョン第2階層と第1階層を繋ぐ階段の前にうち捨てられていた彼女もまた命だけは助かった。
ダンジョン下層から帰還してきた教官達が発見してくれたお陰だ。
その後、マインドフレイヤー亜種が第1階層まで上がってくるほどダンジョン内が奇妙に活性化していることが確認され、ダンジョンは一時封鎖されることとなった。
ダンジョン実習は当分の間中止。
今回の件では、被害は訓練生が1人行方不明になっただけの最小限度に食い止められたといえる。
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