第45話 ダンジョン清掃 異変②

「え?」


 シェイクに呼び止められ、プリンは振り向く。

 シェイクは厳しい顔をしていた。

 プリンはそんなシェイクと通路の先をキョロキョロ見比べ、どっちつかず。


「で、でも……助けないと……」

「助けてくれ……! こっちに来て、早く……!」


 プリンの背後からは助けを求める、星3つ訓練生リリィの声。

 それは通路の先から聞こえてくる。

 そして、湿った足音も次第に近付いてきて、


「やべー助かったぁ……! やっと味方に会えたぜ……!」

「……やはり手遅れか……」


 通路から現れた者がいた。

 リリィの声は安堵に満ちていて、一方のシェイクは呻いてみせる。

 ココアは痛ましそうに首を振り、プリンは見上げて、ひぇ……! とたじろいだ。

 プリンは引きつった笑いをリリィに向ける。


「こ、ここっこれは……! あ、あのっ、へ、へへ、だ、だいじょう、ぶ……ですか?」

「あたしは大丈夫だ! でも、仲間がやべー! アーちゃんがやられて、スクワーロも第2階層から戻ってきてねー! しかもあたしも化け物に追われてて……なあ? あたしをダンジョンの外まで連れてってくんねーか!? 頼むよ!」

「へ、ふへ、へへっえっそのっ、だ、だいじょばない……みたいに見えるんですっけど……」

「あ? なに言ってんだおめー? あたしは大丈夫だっていってんいってんだろ」


 と、シェイクが剣を構えたのを見て、リリィは息を呑む。


「お、おいっ!? なんで……あたしに剣を向けやがる!? み、見捨てよーってのか!? お、鬼かよおめーら!?」

「……お前、ダンジョンの外に出てどうする気だ?」

「あ? 決まってん、てん、だろーが! ダンジョン内にやベー奴が出たから助けを呼ぶんだよ! そしたらもっとたくさん個体が寄ってきて情報を収集可能、独占する。点在する個体をより多く収穫するためには、収穫済みの個体に助けを求めさせるのがより効率的と判断。実行。あ? あたし、なに。言って言って言って痛ってぇ……」


 頭頂部に管のような触手が突き刺さっているリリィ・キャッスル星3つ訓練生は白目を剥いて血を吐いた。

 巨人の肋骨の中に閉じ込められた彼女には、何本もの触手が繋がっている。

 その触手が蠢いた。

 リリィの喉が震えだす。


「確認。シェイク・ウィンター。星6つ訓練生。軽装戦士」

「……こいつはなんだ? アンデッドの巨人の体内に犠牲者を取り込む触手の魔物?」

「人の脳を欲しがるとか、マインドフレイヤ―とかいう異形の魔物の一種かも」


 シェイクの呟きに、ココアが返す。


「マインドフレイヤ―系だとしたら精神を汚染してくるよ。幻覚や催眠で頭が朦朧としたところを捕まえられちゃう。そして捕まったが最後、脳を啜られるって」 

「ええっ!? の、脳を……?」

「下がれ、プリン! そこじゃ奴の的になる!」

「……また、プリンちゃんをお荷物扱いするの?」


 ココアにぼそっと囁かれた。

 シェイクは眉を上げる。


「そんなつもりはない。単に後衛を前衛の後ろに下がらせるだけだ」

「で、お姫様のようにシェイク君が守ってあげるから、指示に従えってこと?」

「おい、なにを言ってるんだ? こんなときに?」


 ココアの表情から感情が消えた。


「……いい加減、プリンちゃんのことを1人の人間として見てあげなよ? プリンちゃんはシェイク君を無敵の幸運戦士にするためのアイテムじゃないんだよ?」

「……! お前、プリンの能力の事、いつ気付いて……いや、違う! 俺は……プリンをアイテムとして利用してるなんて、そんなつもりは……!」

「本当に? プリンちゃん無しでは大した戦士じゃないって、シェイク君も自分でもわかってるよね?」

「なにっ!?」

「シェイク君が彼氏面して『守りたい』とか言えるのも、プリンちゃんの力のおかげ。自分1人の力でプリンちゃんを守って見せる、とは決して言わない。いえ、言えない。それがシェイク君だもんね」

「いい加減にしろ……! 戦闘中だぞ!」

「わたしを怒鳴って脅かして黙らせたいの? それはわたしの話を聞きたくないから? シェイク君はプリンちゃんを誰かにとられて、自分が無敵の戦士じゃなくなることが怖いんだよね? だからプリンちゃんに他の誰かが近付くの、本当は嫌で嫌でしょうがない……」

「俺はプリンのために……プリンの力になりたいだけなんだ……プリンが冒険者になりたいなら、俺が手伝う……助ける。プリンが誰と仲良くなろうと、俺は……俺は……友達として応援……する」

「嘘だよね? 憎いよね? プリンちゃん取られたら、取った奴を殺したくなるよね? それはシェイク君が無敵の戦士じゃなくなっちゃうから? それとも、プリンちゃんのことが好きだから? どっちにしろ、プリンちゃんを独り占めしたくてしょうがないの、シェイク君は」

「……だとしたら、どうだというんだ?」

「あはは! 認めた? プリンちゃんを独り占めしたいって? なら……プリンちゃんに近付くわたしのこと嫌いだから……今度はわたしを殺す? 仲間のわたしを殺して、プリンちゃんを独占する?」


 ココアは薄笑いを浮かべ、シェイクに蔑みの目を向ける。

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