第44話 ダンジョン清掃 異変①
『ダンジョン管理者から訓練生各位へ……』
ダンジョン内に女性の声が響く。
シェイクは片眉を上げた。
その声に潜む深刻さを感じ取ったからだ。
『現在、ダンジョン内に魔力障害が発生しています。訓練生は速やかにダンジョン外へ退避してください』
「魔力障害? プリンちゃん、なにか感じる?」
「……そう言えば、さっきから変かも……」
ココアに対して、プリンが小首を傾げて見せている。
あの後結局、シェイク達ははじまりの部屋を何事もなく通過していた。
スチールはあの場でシェイク達に襲いかからんばかりだったが、グッドマンがそれを制止したお陰だ。
シェイク達に戦いを挑むにも、手ぶらのシェイク達相手では『宝箱を強奪するため』という強弁を張る余地がない。
グッドマンはそんな意味のことを、無駄に言葉を浪費して訴え続けた。
『ダンジョン課題の達成のために仕方なく奪い取るしかなかったのです……と殊勝な顔つきで言い訳するでもなく、単にぶん殴りたいから殴りました! のような理由で私闘を繰り広げたとあっては、教官側も見逃してはくださらないでしょう。ねえ、スチール様? ここは考え時というものですよ?』
そんな風に止められ、スチールもどうにか思いとどまったようだった。
こうして、『くそっ、行っちまえ!』といったスチールからの暖かな送り出しの言葉を背に受けたのが、しばらく前。
そして今、シェイク達はダンジョン南側の探索を繰り広げているところだったのだが、
『……魔力障害の影響で監視球等の魔法装置が作動せず、ダンジョン内の管理が現在不能になっています……』
と、そんなアナウンスがされるとあっては、穏やかではいられない。
ココアが周囲を見回した。
「魔法装置が作動しないって……じゃあ、今はダンジョン管理者側にわたし達の状況が見えてないってこと? 訓練生がピンチになってても気付いてもらえない?」
「その割に、ダンジョン内へのアナウンスは可能なようだな」
「……でも、さっきからなんか魔力の流れが悪い感じがするんだよね」
そうプリンも不調を訴える。
それに呼応するかのように、アナウンスは不穏になっていった。
『……不測の事態に……速やかに……くださ……』
声が途切れ途切れ。
遂には完全に沈黙した。
シェイクは天井を見上げながら呟く。
「……なにが起きてる? どうして魔力障害が?」
「わかんないけど、あまりよくないことが起きてるのは確かだね。……魔力障害が拡大してるみたい」
「かっ、かか帰ろっか?」
「いいのか、プリン? まだ宝箱を見つけていないのに」
「うっ……。ううん、そうなんだよね……できれば宝箱を見つけて持ち帰りたいけど……危険を察知して危機回避するのも有能冒険者っぽいから、そっち方向を目指した方が……」
「……助けて……誰か……助けてくれ!」
「! 今のって……!?」
シェイク達が相談していると、切羽詰まった声がしてきた。
プリンが上擦った声で問い返す。
「だ、だだだ誰ですっ、かっ!? どこです!?」
「化け物に追われて……仲間がやられた! 早く! 助けに来てくれ!」
シェイクはその声に眉をひそめた。
大声で問い返す。
「誰がやられたって?」
「アーちゃんが……! 化け物の中に……ぐちゃぐちゃに丸められて……!」
段々と声は近付いてきているようだ。
「……そこにいるんだろ!? 逃げないで、そこにいて……! あたしはリリィ・キャッスル星3つ訓練生だ!」
叫び声と共に、ぺたんぺたん、という湿った足音も近付いてくる。
近くの通路の先だ。
プリンがぶるっと震えた。
「……あの人達だ……! で、でも、助けないと……!」
プリンは逃げてくるリリィを一刻も早く迎え入れようと、声のする通路へと先に立って進みだす。
シェイクが目を見開いた。
プリンに鋭く叫ぶ。
「待て! プリン、ダメだ!」
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