第42話 ダンジョン清掃 第1階層⑦
ダンジョン第1階層のはじまりの部屋。
そこに陣取るスチール達は夢にも思っていない。
部屋の北側にある通路、その暗がりにシェイク達が潜んでいることなど。
だから、無防備にやり取りを続けていた。
「……今更だが、ちょっと卑怯じゃないか?」
「おやおや? スチール様、なにかお気に召しませんでしたか?」
「訓練生はダンジョンを出るのにここを必ず通らないといけない。宝箱を見つけた奴らも、だ。なので、そこを待ち伏せして宝箱を横取りする。……それっておかしくないか? 俺達はシェイクや煽りチビ達と勝負してるわけで、他の訓練生は関係ないだろ?」
「スチール様も仰っていたでしょう? これはデスゲームだ、と」
「いや、まあ、そうだが……」
「勝利のためなら手段は問わないデスゲーム。そう、相手を倒してもいいのです。宝箱を入手して先にダンジョンから出たものが勝ちなのですから。ならば、宝箱を手に入れたパーティを殺してでも奪い取るのは当たり前の話ですとも、ねえ?」
「……俺の言うデスゲームって、シェイク達が先に宝箱を手に入れても力づくで奪い取るってことで、実質あいつらと戦闘でどっちが上か勝負を決めたいって話なんだが。正直、戦うための言い訳なんだよ、デスゲームって言ったのは」
「……戦う? 実際に剣を交えたり魔法を撃ち合ったりして戦うということですか? あの星6つ訓練生のシェイクさんと? わたし達が手も足も出なかったヒドラを倒し、死者の王リッチすら滅ぼしたシェイクさん達と?」
「そうだ。なのに、俺達の勝負とは関係のない他の訓練生達を巻き込んで宝箱奪って勝ちって……俺がやりたかったのはそういう勝ちじゃない。あいつらと殴り合って勝ちたいんだ……!」
スチールの力強い言葉に、グッドマンが揉み手で返す。
「さすがスチール様、お志しが違う! あえて不可能、あ、いえ、えー、困難な道をお選びなられるとは!」
「は? 不可能? 俺達ではシェイク達に勝てない、と?」
「いえいえいえいえ! 滅相もない!]
首を大きく横に振るグッドマン。
その横でずっと黙していた魔術使レッドアイがぼそりと呟く。
「……いや、力だけでは勝ち得ない。彼等には力では及ばぬなにかがあるのだ」
「は? は? なんだと? 昨日はたまたまああいう結果になったが、あれは俺の実力じゃない! ちゃんと真正面から戦えば、俺の方が強いと証明できるんだ! 装備が全然違うんだからな!」
吠えるスチールに、グッドマンの高速揉み手。
「まさにまさにまさに! まさに仰る通りで! 必ずや、スチール様は勝利を収められるでしょう。……ただ……」
「あ? ただ? ただ、なんだ?」
「シェイクさんよりスチール様の方が上だと証明するのに、わざわざ戦闘をする必要ないのでは? 宝箱入手で勝負すると向こうも同意したのですから、そのルールで勝てばよいのです」
「ぶん殴って勝った方が気分がいいだろ」
「あっ……スチール様、そこまで本気で勝てると……」
「どういう意味だ?」
「いえ、その、わざわざこんな宝探し勝負に持ち込んだのは、実力で殴り合っても到底かなわないとご自覚なさっていて……。だからこそ他人を巻き込んだり横取りしたりといった卑怯な手段でなら勝ちを拾える勝負形式にしたのかと……」
「おいっ!? お前、俺のことそんなに弱いと思ってたのか!?」
「いえいえいえいえそんなつもりでは!」
「ぐぐぐっ! お、お前がそういうつもりなら、いいんだぞ! パーティから抜けても! パーティ自体、解散してもいいんだからな!」
なんだか大変そうなスチール達の様子が窺える。
シェイクはこれ以上スチール達の仲違いを聞かされるのもしんどく感じ、通路からはじまりの部屋に入った。
ココアもそれに続き、ワンテンポ遅れてプリンが慌ててついてくる。
シェイク、手を挙げて問いかけ。
「話し中のところ悪いが、通ってもいいか?」
「! 貴様等っ! 聞いていたのか!」
シェイク達を目にして、スチールがいきり立った。
「丁度いい! ここで俺達の方が実力で上だと証明してやる! さあ、俺達と戦え!」
「さ、さすがスチール様! 勝利を信じて夢見る力は無限大であられる! けれどしばしお待ちを! 見たところ、シェイクさん達は宝箱をお持ちではありません。なら、宝箱を奪うために戦う必要はありませんので、通ってもらってよろしいかと、ねえ?」
「おい、グッドマン!? なにを勝手な……!?」
「ささ、どうぞどうぞ。お好きな方角へお進みください」
「行かせるか! 宝箱なんて関係ない! 戦え!」
シェイクは大きく溜息を吐いた。
「戦う理由がない。ダンジョン内で理由なく訓練生同士で戦闘を行えば、それはただの喧嘩。私闘になってしまう。私闘行為は懲罰の対象だ。……表向きはな」
「そうだ! 私闘は禁止されてるが……バレなければいいんだ!」
「……バレるに決まってるだろ。ダンジョンの出入り口付近で訓練生同士が殴り合ってたら、ダンジョン管理者だって黙認できない。目立ち過ぎだ。こんな場所で待ち伏せなんかするなよ」
「……ぐ、これはグッドマンがそうしろと……」
「とにかく、こんなことでプリンが訓練所から追い出されでもしたら困る。お前らだって、まだ訓練所を辞めたくはないだろ? ここで自分達の実力を証明したいんだろう?」
「く、くそうっ!」
スチールは歯軋りして呻く。
と、プリンが大切なことを打ち明けるように忠告した。
「あっ、あのっ……ここで宝箱がやってくるのを待っているより、自分で探しに行ったほうがいいですよ。冒険者なんですから」
「……やかましいっ! 正論ぶって腹が立つっ!」
スチールにはプリンからの忠告が響かなかったようで、怒声が返されるばかり。
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