第40話 ダンジョン清掃 第1階層⑥

 シェイク達はダンジョン第1階層を歩き回っている。

 途中、とりあえず目についたゴミの回収も忘れてはいない。

 だが、肝心の宝箱は未だ見つからないまま。

 これは奇妙なことだった。


『プリンがいるのに、宝箱が見つからないなんて……。プリンがもたらす幸運があれば、すぐに見つけられるはずなのに』


 シェイクは腑に落ちない。


『……もしかして、逆に宝箱が見つからないことが幸運なのか? 宝箱を見つけてしまうとよくないことが起こる、とか? 見つからない方がいいなら、このままダンジョンを出てしまってもいいが……』


 そんなことを思っていると、ココアが声を上げた。


「第1階層の北側は大体見て回ったんじゃない? ……いったん来た道を引き返して、別の方角を探してみるのはどう?」

「宝箱、見つからないね……もう、誰かが見つけて回収しちゃったのかな……? 絶対、ぼくが見つけてやりたいのに……!」

「プリンは宝箱探しに随分やる気だな。そんなに勝ちたいのか?」

「それはそうだよ。冒険者としての挑戦だもん! ……それに、シェイクが取られちゃったら、ぼく、困るし……」

「俺が取られる?」

「あっ、べ、別に、シェイクはぼくのもの、とかそういうんじゃないから、ね? と、とにかく、冒険者なら宝探し勝負で負けたくないと思うのは当然、なのっ!」

「……プリンが勝ちたいと思うなら、俺は全力で味方をするだけだ」


 シェイクはそう言ってから、ココアに向き直る。


「……というわけで、いったん引き返して別の方角を探すっていう案に賛成だな」

「ふーん。プリンちゃんのために、ねえ」

「……なんだよ」

「ん? なんでもないけど? まあ、ここまで拾ったゴミの量で得点はもらえるから本当は探索終了してもいいんだけど……あいつらとの勝負に勝ちたいっていうなら続行だよね!」


 ココアはプリンに向けてウィンクして見せる。


「わたしもプリンちゃんのために頑張る! ていうか、わたしの方が頑張るから! 目にもの見せてやろう! 特にプリンちゃんを脅していた奴等に!」

「え、あ、はい」

「元気出していこー! えいえいおー!」

「お、おおー……?」


 プリンはココアにつられ、中途半端に拳をあげかけた。

 途中で我に返り、顔赤らめて俯く。


「……ねえ、プリンちゃん? ちゅーしていい?」

「ふぇっ!? えっ!? あっ、あっ、そっ、そのっ、なっ、なんっで!?」

「プリンちゃんが面白いから」


 ココアはそう言いながら、シェイクの方を悪戯そうにチラ見してくる。

 様子を窺われている。

 そう思ったシェイクは大きく溜息。


「……ふざけてないで、先を急ごう」


 こうして、シェイク達はダンジョンの通路を引き返していく。

 向かうははじまりの部屋。

 ダンジョンの入り口から第1階層に降りた最初の部屋のことだ。

 途中、他の訓練生が魔物と戦っているらしい音が聞こえてきたりしたが、出会うことはなかった。

 そしていよいよ、はじまりの部屋へと辿り着く直前。

 シェイクははじまりの部屋に人の気配を感じた。

 

「……で、なんで俺達は動かずにずっとここに張り付いてるんだ、グッドマン?」


 しーっ、とシェイクは皆に注意を促し、通路の影から聞き耳を立てる。

 宝探し勝負の相手、スチールの声だ。

 それに応えるのは薄っぺらい声。


「わたしにお任せください、スチール様。これぞ必勝の策というものですよ、ええ」

「ほう? 必勝? あの陰険陰キャチビのパーティに絶対勝てると言うんだな?」

「ええ、左様です。ここにいれば、宝箱はわたし達の手の中に転がり込んできますとも」


 そう聞いて、シェイクは肩を竦める。

 大した自信だ、と。

 グッドマンの声は続く。


「ここはダンジョンの出入り口と繋がる唯一の部屋。誰もがここを通ってダンジョンの奥底へ、またダンジョンの奥底から帰還するために通らなければならぬ場所です。また、この部屋からは第1階層の東西南北すべての方角へ向かう道が続いてもおります。言ってみれば、交差路ですね、ええ」

「それで? それが俺達の勝ちとどう繋がる?」

「ここに陣取ることで、誰かが宝箱を持ってここを通れば、それを見つけられます。わたし達は宝箱さえ手に入れれば良いのですから、その者たちから宝箱を譲り受けましょう。そうすれば、あの女の子達にエッチな命令し放題ですよ、ええ」

「……宝箱の発見者から横取りするということか?」

「ええ、その通りで。大体、自分達の力だけで宝箱を見つけようなど愚かにも程がありますとも、ねえ? すでに訓練生の大部分がダンジョン内に入り込んでいるのですから。もう、とっくに誰かに回収されているに決まってます。今更ダンジョン内をうろうろ探したところで見つかりっこありません。ここで待ち構えるのが最善手というもの。まあ、わたし達以外のパーティはそのことに気付きもしなかったようですが」


 グッドマンに嘲笑われて、シェイク達は顔を見合わす。


「……ボコっちゃう?」


 ココアが親指で首を掻き切る真似をして見せた。

 物騒な僧侶だ、とシェイクは首を振る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る