第39話 ダンジョン清掃 第2階層で起こっていたこと
ダンジョンの第2階層。
石造りの通路が続いている。
その通路にコッコッと硬質な音が響いていた。
意外なほど大きく聞こえる音。
それはつまり、周囲に他の音が無いことを意味する。
人影が二つ、ダンジョン内の明かりに照らされて伸びた。
「……どうせすぐ戻るんだからバレたりしないのに」
「いいから急ごうぜ。そんなこと言ってて、教官達に鉢合わせでもしたらマジでやべえ。特にあの白髪ジジイ! あいつに目えつけられたら訓練所から追い出されるかもしれねえだろ」
「教官達がいつまでも第2階層にいるわけないじゃない? もうとっくに下の階層に降りて、訓練に合わない強過ぎる魔物達を駆除してるわよ」
女子訓練生の2人だ。
アーちゃんと呼ばれていたかわいい訓練生と、獣じみた訓練生。
そのアーちゃんがぷうっと膨れる。
「……もう! 本当なら3人で探索するところを2人でやるなんて!」
「仕方ねえだろ。リリィがぶるってどうしても第2階層に降りたくねえって言うんだから」
「命令違反がバレるのを怖がるなんて、あの子、意外とビビりだよね? 悪そうな顔してるくせにさ」
「盗賊やってる所為で慎重過ぎんだよ、あいつ」
「……仲間にするの間違ったかしら?」
「あいつでも見張りくらいはできんだろ?」
「そうね。あの子にも大事な役割があるもんね」
「第2階層への階段を封じてる落とし戸、あたしらが宝箱持って戻ったらリリィが上から即開けする。そんで落とし戸を閉め直す。ずらかる。簡単な話だぜ」
「そのためには、まず第2階層の宝箱を見つけなきゃだけど?」
「まあ任せろって。あたしが祖霊の声を聞いて探し物の場所なんかすぐに教えてもらうから」
そう言って、獣じみた訓練生は懐から革袋と小さなお椀を取り出した。
「ここらでいいか。さあ、頼むぜ、ご先祖様、守り神様、精霊様。黒森の獣の加護受けしスクワールに道を指し示しやがれ」
そう言って、革袋の中身をお椀の中にばらまく。
歯や骨片が乾いた音立てて、お椀の中を転がった。
「……なんだこりゃ?」
「あなたの精霊術? なんて出たの?」
「あのよう、精霊さんよぉ!? あたしはお宝の場所を教えろって言ってんだよ!? なのになに言ってんだてめえ!」
獣じみた訓練生は歯を剥き出して唸り、もう一度、振り直す。
「……なん、なんだよ……マジで……」
「ちょっとぉ! なんて出たの? って聞いてるんですけどぉ?」
「……今もう一度聞いてみた。同じことしか言いやがらねえ……」
「だからなんて?」
「逃げられるのは2人のうち1人……」
「はあ?」
「……これ……警告だ。やべえって言ってる。大鷲の骨が上に出たときは逃げろって。どうせ逃げられねえだろうが、って叔父貴がそう言って……」
「ちょっとちょっと? 宝箱はどうしたのよ?」
アーちゃんがむくれて見せるが、獣じみた訓練生はまるでそちらを気にしない。
しきりに周囲に視線をやる。
その首を小刻みに揺らすさまは小動物のよう。
「あなた、なにしてるの?」
「……なあ、ちょっと気になってたんだけどよ。静かすぎねえか?」
「そう? こんなものじゃないの? ダンジョンの中なんて」
「魔物の鳴き声も足音も、なにもねえ」
「教官達が第2階層の魔物達を全部掃除しちゃったのかもね」
「……聞こえるのはあたし達の足音だけ。こんな静かな場所で、あたし達の足音は格好の的になる……」
「呆れた。かび臭い占いで縁起が悪かったから、怖くなっちゃったの?」
「でも、おかしいだろ!? こんな……他になにも聞こえねえとか」
「……なによ。ばかばかしい」
そう言いながら、アーちゃんは耳を澄ませてみせた。
と、バカにしたように言う。
「聞こえたじゃない」
「え?」
「あなた、今、聞こえなかったの?」
アーちゃんの耳は確かに捕らえていた。
ガラスをひっかくようなかすかな音。
アーちゃんは言ってから、それが何者かの悪意に満ちた含み笑いだとようやく気付く。
その時だった。
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