第38話 ダンジョン清掃 第1階層⑤

『……今は目の前のことに集中しよう。ダンジョン探索中にあまりプリンの力のことを考えすぎるのはよくない。プリン本人に打ち明けるべきなのかどうか、周囲に知らせてもいいのかどうか……隠そうとせず、ただ自然の成り行きに任せるべきなのか……なんてことを今考えても結論は出せない。だから考えるのはやめて、集中。集中だ……こんなことじゃダンジョン内の些細な変化にも気付けず、不意打ちや罠にもかかり易くなる……』


 と、シェイクは見事に上の空。

 まるで頭に残らないことを考えつつ、ダンジョン内の通路を進んでいる。

 スライムのいた部屋を抜け、更に奥、北側へと向かっているところ。

 だから、シェイクはココアに促されるまで気付かなかった。


「ねえ、近くで誰か戦ってない?」

「……うん? なんだと?」


 言われて、耳を澄ませば確かに人の罵り声や金属音が聞こえてくる。


「……ちっ、これだから俺は嫌だったんだ! こんな最悪な状況……!」

「……それはこっちの……もう耐えられない……!」

「……くっ、血が……血が止まらん……」

「……汚れ……もう……殺して……」


 男女の声だ。

 プリンがおたついた。


「ね、ねね、ねえ!? たっ、助けに行こう!?」


 プリンに言われるまでもなく、シェイク達は声の元へと急ぐ。

 導かれたのは地下通路の脇に空いた窪み。

 そこから小部屋に通じているようだ。

 声はまだ途切れていない。

 シェイク達は中に飛び込んだ。


「大丈夫か!?」


「……ちゃんと始末しろと言ったぞ、メス豚ぁ! これだから女に背中を預けたくなかったんだ!」

「手傷負わせただけで放置してたのはあんたでしょ? 口先だけじゃなくて、さっさととどめ刺せ! うっわキモ……最悪……」


「だ、だだ大丈夫です、か……? ひひゃあ!?」

「うわ、これは……グロイねえ。虫の巣かあ……」


 シェイクの後から飛び込んできたプリンとココアも腰を抜かすやらドン引くやら。

 そこには巨大なGの群れを叩き潰している2人組の訓練生の姿があった。

 巨大G達はその生命力をいかんなく発揮し、半分潰れた体から黄色い血と内臓を垂れ流しながら駆けずり回っている。

 カサカサカサ。

 床は血でぬるぬる。

 むっとする悪臭。

 2人組の身体はGの体液で汚れていた。

 シェイクは様子を見て冷静に判断を下す。


「……大した敵じゃない。俺達の手助けはいらなそうだ」

「そそそそうだね。か、帰ろ……っか?」

「あの子達の獲物を横取りするのも悪いしね」


「ん? ああっ! シェ、シェイク! 助力しに来てくれたのか!? かたじけない! やはり俺にはお前だけだ!」

「……! 星1のグズ……あんたの所為で、あたしこんな目に遭ってるのよ!? 手を貸しなよ! そして……あんたも汚れろ!」


 2人組の訓練生に気付かれ、シェイク達は仕方なく巨大G退治を手助けした。


「……ようやく全部に止めを刺したか……」

「うえぇ……シェイク、ぼく、汚れちゃった……」

「ふん、ざまあ」

「さあ、みんな並んで。清めの魔法で少しは綺麗にするから」

「シェイク、隣に並んでいいか? やはり、俺の横に立つのはメス豚よりも立派な漢であるべきだ」

「……誰なんだよ、お前」


 後始末が済んだ後、シェイク達はようやく助けた訓練生が何者だったか知る。


「そういえばシェイクには名乗っていなかったか? 俺はホームレス・ハンサム星4つ訓練生だ。シェイクのことを俺の背中を預けるに足る男だと認めた剣士。それよりシェイク、見損なったぞ! 仲間がメス豚ばかりのパーティを組むなぞ……本物の冒険者は男同士で組むものだろうが!」

「……悪いがお前のことなんか全然覚えがない」

「え、えっと、あなたはカシスさん……でしたよね? え、へへ」

「そうね。あんたの所為で星付け試験に失敗して、星2評価をつけられた割れな盗賊」

「えっ? あっ、そ、そのっ、ごめん、なさい……」

「あんたの所為でケチがつきまくりよ。星1つに限りなく近い星2評価とか言われて……そんな訓練生と誰が組みたがると思う? 誰も一緒にダンジョンに潜ってくれない。今日みたいなボーナス課題でも、あたし1人じゃアベレージ足りなくて参加できない。それでもようやく見つけたメンバーがこれ。女嫌いで男好きのイカレ剣士。こんなのと組まなきゃならなくなったあたしの苦労、わかる?」

「誰が男好きだ!? 俺だってメス豚と組みたくなんかなかったんだがな!」

「じゃあなんでパーティになったんだ」

「他の連中が、特に男の訓練生が俺と組むのをなぜか嫌がるんだ。俺は剣士でダンジョン探索には不向きだからどうしても盗賊系の仲間が欲しかった。だから……血を吐きたくなるような妥協の結果、このメス豚と手を組んでやったんだ」


 ココアが肩を竦める。


「めちゃくちゃギスギスしてるね、このパーティ」


 その後、ホームレス訓練生はシェイクについていきたそうにしていたが、プリンと一緒にいるなんてキモくてムリ、と刺々しいカシスに引っ張られ、止められた。

 シェイク達はこの虫(巨大G)の巣でのゴミ拾いはホームレス達に任せ、邪魔をせぬようそそくさと退散する。

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